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引退もよぎった高木美帆の「自分を超える」戦い W杯初陣、全4レース表彰台に見た決意

今季からヨハン・デビット氏を個人コーチに招き「チーム美帆」として再始動【写真:荒川祐史】
今季からヨハン・デビット氏を個人コーチに招き「チーム美帆」として再始動【写真:荒川祐史】

ナショナルチームを離れて感じる難しさと強い意志

 3日間を通じて目に見える悔しさがあったのは、最終日の女子1000メートルだ。北京五輪では金メダルに輝いた種目であり、自信を持ってのスタートだったはず。しかし、同走となった北京五輪銀メダリストのユッタ・レールダム(オランダ)と競り合って迎えた最終周回のバックストレートで不運に見舞われた。2人がほとんど並ぶようになってしまったため、優先権のある外側を滑っていたレールダムが前に出て、高木は立ち上がる姿勢で減速。ここで大きくロスしたのが響き、高木は1分15秒60でゴールしたレールダムに0秒80及ばず、2位のキム・ミンソン(韓国)のタイムにも届かず、結果は3位となった。

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 高木は、10月下旬の全日本距離別選手権(長野・エムウェーブ)では3種目で優勝したが、ナショナルチームを離れて1年目ということでこれまでとは勝手が違い、競技中の疲労回復やコンディショニングに課題が見つかったことを吐露していた。元々は、どちらかと言えばスロースターターだった高木。しかし、全日本距離別選手権では、初日の1500メートルで自身が持つ大会記録を1秒25も更新する1分53秒34で優勝したものの、2日目以降のレースでは首をかしげる仕草が見られた。そして、全レースが終わった後、「3日間で体の変化を感じた」と言い、「私の中にあるのは世界でどこまで戦えるかというところ。1500メートル以外では、世界では厳しい戦いになってくるだろうという実感がある」と不安も漏らしていた。

 そういった背景を重ね合わせてW杯開幕戦全体を振り返ってみると、ある意味、高木が長野で感じていた通りの結果だったと言える。自信を持って滑った1500メートルで優勝。厳しい戦いになると予想していた種目は、いずれも3位。とはいえ、チームパシュートを含め出場した全種目で表彰台という結果は、やると決めたことは必ず遂行する、強い意志を持つ高木の真骨頂だった。

 現在、高木を取り巻く世界の趨勢には変化が起きている。平昌五輪、北京五輪と2大会連続で女子1500メートルの覇権を争った好敵手のイレイン・ブスト(オランダ)は昨季限りで現役を退いた。日本のダブルエースとして刺激し合ってきた小平奈緒も引退した。高木自身、五輪の金メダル2個や、世界オールラウンダー選手権と世界スプリント選手権の両方のタイトルを持っており、北京五輪終了後には引退を考えたこともあった。しかし、今、こうして立ち上がり、より強い意志を持って「以前の自分を超える」というミッションに挑んでいる。

 今季のW杯前半戦はスタヴァンゲルの第1戦を皮切りに、第2戦ヘーレンフェーン大会(11月18~20日/オランダ)、第3戦および第4戦カルガリー大会(12月9~11日、12月16~18日/カナダ)と続く。すぐにヘーレンフェーン大会があり、さらに12月には世界記録の更新も期待できる高速リンクでの2連戦がある。

 戦いは始まったばかり。今季の高木から目が離せない。

(矢内 由美子 / Yumiko Yanai)

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