引退レース2日前、小平奈緒が不意に涙した理由 地元・長野で最後に見た“夢の景色”
昨年の大会を上回る37秒49をマークした凄さ
こうして迎えたレース当日は、完璧な集中モードのまま会場入りすることができた。
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ラストレースは素晴らしかった。得意のアウトスタート。最初の100メートルを全体でトップの10秒44で入ると、最初のコーナーでスムーズに加速し、バックストレートでは観客がバチバチと鳴らすハリセンの音に背中を押された。一抹の不安があったという最終コーナーも無事にクリアした。「あとは歯を食いしばってフィニッシュするだけ」と飛ばし、37秒49でゴールした。
「最初の100メートルは10秒台の前半が出たので、良い集中力でスタートを切れたと思います。第1カーブでは完全に(重力に)身を委ねて、バックストレートもかなりいい滑りで通過しました。(最終の)インカーブを抜けていく時は、“もしかしたら転ぶかもしれない”という不安が一瞬よぎったのですが、でも足元がすごくしっかりしていて、全然その心配はいりませんでした。(カーブで足を交差する)最後の1クロスを踏み終えた後に、最後のストレートはもう自由だ、ゴールまで一直線に飛び込むだけだと思い、その後はすごく気持ち良く滑ることができました」
会心の滑りだった。しかし、派手なガッツポーズは見せない。小平はゴールの瞬間、右手の拳を小さく握りしめ、右手を一度だけ掲げると、その後は静かにリンクを流した。最終組で滑る選手のためにスタンドに向かってジェスチャーで静まるようにお願いする姿もあった。小平らしさは人生の節目となるラストレースでも変わらなかった。
結果は、2位の髙木美帆を0秒69上回る圧勝。8年連続13度目の優勝が、現役最後に残した成績となった。
「氷とケンカすることもありましたが、やっと親友になれたと思います」
今の自分のすべてを滑りで表現できたと、笑みを浮かべた。
それにしてもシーズン開幕戦、しかもわずか1レースだけのために、夏場のとてつもなく厳しいトレーニングを乗り越えてきたことは驚異的としか言いようがない。そして難しいシーズン初戦で、昨年のこの大会で出した37秒58より速い37秒49をマークしてみせたのである。ラストレース後に取材に応じた結城コーチは、「頭が下がる思いです。筋書きがあってもなかなかこのようにはならない。本当に、素晴らしいレースだった」と感服していた。