伊藤美誠が描く最強の宿敵・中国撃破 51年ぶりV目前の今、心は「もう完全に挑戦者」【世界卓球】
負けて成長するのは当たり前、大事にしてきた「勝っても成長すること」
母・美乃りさん、コーチと相談。一度、卓球から離れる選択肢もよぎった。しかし、「このままやっていても自分にも失礼だし、サポートしてくれている方にも失礼」と覚悟を決めた。「『パリ五輪で優勝する』という言葉を自分の口で言った時にスッキリした」。長い期間で気づいたのは、「挑戦者」で居続けることの大切さだった。
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「挑戦者の気持ちでいることで、自然と中国選手に競れたり、勝てたりすることが続くと思う。時間が経ってから気づきましたね」
日本のエースにとって、負けた後に成長するのは当たり前。卓球人生で大事にしてきたのは、「勝っても成長すること」だった。
「負けた後は、とにかく必ず成長する気持ちでいっぱいですけど、負けた後よりも勝った後に成長する方が難しい。負けた後は課題が見えやすいし、このままだとダメだって思うから他のことに挑戦できるんです。そういう時は凄く成長しやすい。逆に勝った後に挑戦するのが凄く大事。勝っても、少しずつでいいから成長すること。前を向きながら成長できれば、勝ち続けられるので」
そのために、取材のたびに「挑戦者でいたい」と口にする。9月からTリーグに参戦。日本でしのぎを削る選手たちの成長スピードに驚いた。追われる立場とはいえ、気を抜けばすぐに追い抜かれる。「練習でも挑戦者になる」。燃えるような闘志を取り戻し、中国に乗り込んできた。
その挑戦者の魂が最も発揮されるのが、8日の決勝だ。母国開催で威信をかけて臨む女王は、世界ランクトップ4を揃えた。伊藤が東京五輪で敗れた孫もいる。再び相まみえる可能性は高い。
日本人トップの世界ランク5位を誇る早田、次世代の天才・木原、今大会注目度が急上昇した長崎美柚、最強カットマン・佐藤瞳。過去、類を見ないほど個性豊かなメンバーが揃った。「一人が挑戦者になれば、チームも挑戦者でいられる」。気合いを波及させながら向かう頂上決戦。目をギラつかせながら、自らに言い聞かせるように繰り返した。
「中国が相手なので、もっともっと挑戦者の気持ちでみんなで勝ちたい。とにかく強気で向かっていく。自分自身も、チームも、もう完全に挑戦者。挑戦者として思い切ってやりたいです。それができたら楽しめるので」
そして、天真爛漫な笑みを浮かべた。
「凄く楽しみでいっぱいです」
勝てば51年ぶりの世界一。いよいよ、歴史を動かす時が来た。
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)