35歳の今も第一線で活躍するJリーガーの秘密 槙野智章が年齢を重ねる裏で追求した走り
「ラン検定」の公式ページには、「“ラン検定”とはラン(走り)についてさまざまな角度から学ぶことであり、ランの理解が深まれば、目的に応じた適切なトレーニングを行うことが可能となり、パフォーマンスアップやケガ予防に役立つ」と記載されている。元陸上のトップアスリートが立ち上げたこのラン検定で1級を取得したJリーガーがいる。彼はなぜ、サッカー選手でありながら、走りを学んでいるのか。その理由を探った。(文=藤井 雅彦)
ランの追求はスプリントコーチとの出会いがもたらしたうれしい副産物
「ラン検定」の公式ページには、「“ラン検定”とはラン(走り)についてさまざまな角度から学ぶことであり、ランの理解が深まれば、目的に応じた適切なトレーニングを行うことが可能となり、パフォーマンスアップやケガ予防に役立つ」と記載されている。元陸上のトップアスリートが立ち上げたこのラン検定で1級を取得したJリーガーがいる。彼はなぜ、サッカー選手でありながら、走りを学んでいるのか。その理由を探った。(文=藤井 雅彦)
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今季からヴィッセル神戸でプレーしている槙野智章は“走り”の世界に魅せられたひとりだ。
そもそもの動機は至ってシンプル。
「誰よりも速く走りたい」
足が速ければ、それだけでスターになれる。幼少期における絶対常識で、誰しも足の速さに憧れたはず。
槙野も例に漏れなかった。アスリートが心身ともに充実期を迎えると言われる20代半ば過ぎに所属するマネジメント会社を介してスプリントコーチの秋本真吾氏に出会った時も、その思いは依然として強かった。
オフシーズンを利用して八丈島で3泊4日のスプリント合宿を実施。秋本氏とはその初日が初対面で、トレーニングの詳細すら知らないまま臨んだというのだから、いかに手探り状態でのスタートだったかが分かる。
それでも当時のチームメイトである宇賀神友弥(現・FC岐阜)らと参加した初めてのキャンプは発見の連続だった。
最初に痛感したのは、走りに対する知識と理解の不足だ。
「ある程度、自信を持っていたスプリントなのに、実際は何も理解できていませんでした。走りの世界を追求すればするほどうれしい喜びと、同時に何もできていない悔しさが入り混じった感情になったことを鮮明に覚えています。仲間もみんなゼロからのスタートでしたけど、横にいる選手が吸収し、成長していく姿を目の当たりにして焦りました。そうやって切磋琢磨する環境が良かったのだと思います」
秋本氏の分析によると、槙野は「決して器用ではないけれど、コツコツと努力できるタイプ」。選手によってはたった一度のアドバイスで大変身を遂げる場合もあるが、信じて続けられることも重要な能力のひとつ。“継続は力なり”で槙野は自身の走りと考えが変わっていったことを明かす。
「最初は足が速くなりたいと思って取り組み始めましたが、トレーニングを重ねるごとに変化が生まれてきました。ケガをしない体作りを兼ねていて、僕自身は筋肉系の負傷が圧倒的に減ったことが大きかった。そして90分間体力を持たせながらハイパフォーマンスを発揮できるようになったんです」
明確な手応えを得た瞬間があった。
センターバックを主戦場とする槙野は、ディフェンスラインの背後に出されたボールを処理するために反転し、スプリントを開始した。それまでなら全力疾走で相手よりも一歩先を行こうと無我夢中になっていたはず。でも、その瞬間は違った。
「100%のエネルギーでガムシャラに走っているよりも、7~8割の力で走ったほうが速いことに気付きました。100%だと、どうしても姿勢が悪くなってしまい、足の接地や腕の振りも安定しません。90分間の試合を通して7~8割の力でプレーできれば、全体の強度が上がり、パフォーマンスも安定し、体力的な余裕も生まれました」