世界陸上にいた81歳現役カメラマン マラドーナの「神の手」を撮った男の衰えない情熱
歴代No.1ショットはマラドーナか「あれではない。だって…」
2つの東京五輪を撮影した唯一の人物という。ベヴィラクアさんは1964年の旅を振り返った。
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10月開催の東京五輪に向け、イタリアから列車でアジアを横断。ロシア極東部のナホトカから船で横浜に入り、到着まで10日かかった。大会を終えると、飛行機で米サンフランシスコへ。バスで米国を横断。同年クリスマス、ニューヨークから船でイタリアに渡り、世界一周した。「これが私のロクジュウヨン。たくさんの子どもがヨコハマにいて、その一人がこれをくれたんだ」と達磨の写真を見せてくれた。
長年、スポーツの撮影で大切にしていることは何か。「面白いね」と笑みを浮かべ、遠距離でどれだけ撮影できるかが大切だと説いた。
「私は遠い距離が大事だと思う。短い距離はそれほど重要ではない。私は遠い距離が好き。なぜなら、より難しいからだ。君はこれ(スマホ)で短い距離でも撮れるだろ? でも、長い距離はもっと難しい」
歴代ベストショットは、やはりマラドーナの神の手か。そんな問いは否定された。
「私の最高の写真はこれではない。だって、マラドーナの写真はラッキーだっただけだから。狙って撮ったわけではないからね。マラドーナとゴールキーパーがジャンプをして、私はシャッターを押したけど、(ハンドを)撮っていたことを知らなかった。私はスポーツが好き。でも、大事なのは競技だけではない」
筆者に自身のホームページを見せ、指さしたのは伝説のF1レーサー、アイルトン・セナの写真だった。「これが私の最高の一枚の一つだ」。シャッタースピードを落としながら“音速の貴公子”の顔にピントを合わせ、マシンだけ激しく動いているように見せている。
「私はセナを見て勉強した。これはセナの28年前。私が準備をしていたこのセナの写真は、もっと重要なことがある」
拙い英語によるやり取り。互いに全てを伝え切ることはできなかったが、「とにかく準備が大切なんだ」という言葉は確かに理解できた。次の夢については「11月のカタールW杯だね」と現役バリバリ。一通り会話を終えると、背筋を伸ばし、おもむろに取り出したノートに選手の名前を書き記した。この日の狙いを定めているようだ。
「じゃあ、行ってくるよ」
大きなカメラを担ぎ、スタジアムへと向かった。81歳の現役カメラマン。仕事への情熱を感じさせられる出会いだった。
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)