キャプテン翼ばり“顔面ブロック”の京都GK 痛さの裏に楢﨑正剛が見た「職業GK」の本能
負けた試合からの初選出「チームを救うプレーが勇気を与える」
試合中でスイッチが入っている状態と表現すれば伝わりやすいだろうか。GKとしての闘争本能が体を突き動かす原動力になっているわけだ。
ではトレーニングで向上させる痛みや恐怖心を克服する術はあるのか。楢﨑氏は経験談を交えて見解を述べた。
「シュート練習や練習試合などで至近距離からのシュートを止める場面もあると思います。それが結果的に顔面に当たるのは、育成年代でも多くのGKが経験しているはず。基本動作として最後までボールを見ることは大切ですし、体が後ろに逃げる姿勢や、あるいは横に向いてしまうと、壁の範囲が狭くなってしまう。結果として顔面ブロックを経験すると、痛みの度合いもある程度分かります。僕も相手選手との接触やボールが強く当たって負傷した経験があります」
ボールが直撃した瞬間は痛みがあっても、事が過ぎ去ってしまえば経験値に変わる。ゴールを守るという使命感が、事象をポジティブに塗り替えてくれるのかもしれない。
この試合、京都は上福元の好セーブも虚しく0-1で敗戦。「チームを勝たせるGK、勝ち点をもたらすGK」にこだわる楢﨑氏が敗れたチームからベストセーブを選出するのは珍しい。もちろん明確な理由が存在した。
「負けた試合や劣勢の試合でも、チームを救うプレーが勇気を与えますし、何よりもゲームを壊さず推移させていくことはとても大事です。早めに試合の大勢が決まってしまうような事態を作らず、例えば後半に盛り返すことが期待できるような展開に持ち込む。それに長いリーグ戦では得失点差も最終順位に関わってくる場合がありますし、もし残留争いに巻き込まれれば1点の重みがより増します」
敗れた試合でもGKが目立つ試合は往々にしてある。試合結果は最も重要な要素だが、展開や次戦以降に与える影響など、時には立体的な視点も必要だろう。
予測しづらいピンチの場面を、痛みと恐怖に打ち勝って顔面でチームを救った上福元。これもひとつのベストセーブだ。
(藤井雅彦 / Masahiko Fujii)