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宮城スタジアムは「負の遺産」か 日韓W杯“終戦”の地、解体危機を経た20年後の姿

かつては「解体すべき」と提言していた東北大学教授の村松淳司氏【写真:宇都宮徹壱】
かつては「解体すべき」と提言していた東北大学教授の村松淳司氏【写真:宇都宮徹壱】

W杯後「さっさと壊したほうがいい」と考えた理由

 2年後に行われたトルコ戦は、運悪く教授会が入ってしまった。終了後「1点差だったら追いつくだろう」と車を走らせたら、お通夜のような表情で利府駅に向かう人々の姿を見て「ああ、負けたんだな」と察したという。

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 かくして、宮城県でのサッカーの祭典は終わったが、新たな問題がクローズアップされる。それは「大会後の宮城スタジアムをどうするか」──。当時の村松の考えは「さっさと壊したほうがいい」だった。

「壊すとなると数十億円かかりますが、残すとなると維持費だけで年間3億円。だったら『さっさと壊したほうがいい』ということを言い続けましたし、ホームページにも書きました。そうしたら当時の浅野(史郎)知事から、いきなり電話がかかってきまして(苦笑)。スタジアムの利活用に関する委員会に、僕も加わることになりました」

 結論として、宮城スタジアムは存続されることとなった。イベント開催には使い勝手が悪いが、地域住民に活用してもらうのであれば十分に存在意義がある──。そのように判断されたのである。2003年からは、県の陸上協会が宮城スタジアムに入ったことで、宮城スタジアムは「東北を代表する陸上競技場」という地位を確立する。

 そんな宮城スタジアムが、W杯後に全国的な注目を集める機会が2度あった。すなわち、2011年の東日本大震災と2021年の東京オリパラ。未曾有の震災の直後には、被災地支援の拠点の一つとして機能。コロナ禍の中で行われたスポーツの祭典の際には、男女サッカー競技の会場となり、例外的に観客を入れて開催されている。

 震災の時も東京オリパラの時も、村松はボランティアとして宮城スタジアムに詰めていた。スタジアムの周囲を散策しながら、当時をこう振り返る。

「震災の次の日には、あちこちから到着した消防車や救急車が運動公園に集結しました。ヘリコプターの離発着だったり、海外からの支援活動のベースだったり、それと遺体収容にも使われましたね。僕はボランティアのキャプテンとして、ご遺族の案内もやっていました。東京五輪については限定的でしたけれど、選手と観客とボランティアの交流ができたのは宮城会場だけ。僕自身、とてもいい思い出になりましたね」

 3月の地震被害で、宮城スタジアムは当面の間は閉鎖。それ以前はサッカーや陸上の大会のほかに、小中学校の運動会や個人単位の利用にも門戸を開いてきた。運動会の時は、わが子の勇姿が大型スクリーンに映し出されるので、父母には大好評。また個人で利用する場合、大人200円、小人100円という破格の価格設定となっていた。

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宇都宮 徹壱

1966年生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」を追う取材活動を展開する。W杯取材は98年フランス大会から継続中。2009年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞した『フットボールの犬 欧羅巴1999-2009』(東邦出版)のほか、『サッカーおくのほそ道 Jリーグを目指すクラブ 目指さないクラブ』(カンゼン)、『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)など著書多数。17年から『宇都宮徹壱WM(ウェブマガジン)』を配信している。

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