進化できないと思ったら「僕が引退する時」 Jリーガー宇賀神友弥がラン検定挑戦の理由
自身の走りの変化を感じるのに3年、走りの本能が理論を超えた瞬間
秋本氏曰く、足が速くなる理論は2つしかないという。
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「足の回転を速くするか、あるいは歩幅を大きくするか。この2つの掛け算しかないことが理論で決まっています」
速く走ろうとするあまり、歩幅を大きくするアスリートは多い。サッカー選手のみならず野球選手も同様だ。だがストライドを広げた結果、踵から地面に着地することになる。太もも裏に負担がかかり、ハムストリングの肉離れの原因につながりかねない。
本能で行っていたランが、理論で覆った瞬間だ。宇賀神にとっては目から鱗が落ちた出来事で、走る姿勢は次第に矯正されたが、気持ちだけは前のめりになっていった。
もっとも、すぐに効果が表れるとは限らない。幼少期から何も考えず走ってきた長年の癖は今日明日の修正で簡単に変わらない。
「走りが変わってきたという感覚を得るのに、僕の場合は3年くらいかかりました。手ごたえを得るまでに時間がかかったひとりだと思います。でも一度掴んだ感覚は忘れません。自転車に乗れた時と同じです。一度自転車に乗れた人は転べないじゃないですか」
こうして笑えるようになるまで時間はかかった。だが学んだラン技術が試合でのパフォーマンスに好影響を及ぼすようになると、自然と余裕が生まれる。
「足が速くなった感覚もありますが、それよりも今までの自分の100%のスピードを70~80%のエネルギーで出せるようになりました。結果としてスプリントの本数や走行距離が増え、試合終盤でも高い出力ができるようになった。まさしく効率です。対戦相手の顔色をうかがいながらプレーできる余裕がありましたし、試合が終わった直後なのに『オレはもう1試合いけるんじゃないか』というくらい心のゆとりがありました」
最初に指導を受けた2014年以降、オフシーズンには必ずトレーニングの機会を設けている。シーズン中でも自身の走りに違和感を覚えれば、その映像を秋本氏に送ってアドバイスをもらう。定期的にメンテナンスの作業をしているイメージだ。
だから冒頭に記したラン検定も「答え合わせ」。検定のためにあらためて参考書を読むのではなく、頭の中で10年近い軌跡を辿ることが合格への最短距離だった。
現役プロサッカー選手として走りの重要性を実感している最中の宇賀神だからこそ、言葉には説得力がある。
「僕のプロサッカー人生をワンランク上に押し上げてくれたのが秋本さんですし、走りがいかに大切かを体感した第一人者でもあります。20代半ばではなく死ぬほど走っていた学生時代にこの理論を学んでいたら、僕はとんでもない選手になっていたと思います(笑)。でもラン検定を通して、走りの知識や重要性が日本全国に広がり、海を渡ってアジアへ知れ渡り、ゆくゆくは世界のスポーツのレベルを上げてくれる。プロアスリートだけでなく子どもや指導者にとっても意義があるのも素晴らしいと思います」