ドラッグストアのレジ打ちから目指すパリ五輪 重量挙げ次世代ヒロイン高橋いぶきの物語
普段は「タケダドラッグ」で勤務「関わる皆さんが環境を整えてくれた」
人生で初めて社会人アスリートとして挑む日々は戸惑いの連続だった。普段は奈良市内にあるドラッグストア「タケダドラッグ」で勤務。パソコンでの事務作業やストアでのレジ打ちなど、一般の社員として働く。勤務後は天理大に移動し、同大ウエイトリフティング同好会顧問の菊妻康司監督の元で指導を受ける毎日だ。当初は目まぐるしい生活に慣れず、記録自体も伸び悩んだ。
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「最初はアスリートと社会人のギャップに戸惑っていました。ただ関わる皆さんが、外から来た私を受け入れて優しくしてくれて、環境を整えてくれた。今は何の不自由もなく練習しています」
新たな環境に適応するにつれ、一見過酷に思えたアスリートと社会人の両立が、逆に彼女自身のパワーになった。「職場があることで、うまく気分転換ができる。ある意味では逃げ場だけど、そういう場所があった方が自分にとってはうまくいく」と本人も認める。大きな変化を乗り越え、昨年11月に行われた第81回全日本選手権49キロ級で優勝。クリーン&ジャークでは、自身が持つ記録を1キロ上回る109キロを挙げ、日本新記録を樹立した。
「同僚の方にもすごく喜んでもらって、単純に嬉しかった」。勤務先の竹田年男社長も高橋の姿に「仕事もよくやってくれている。社内では年配の社員も多いので娘のように可愛がられています」と目を細める。
自身もシドニー五輪男子56キロ級代表だった菊妻監督との天理大学での日々も、また彼女にとって新たな刺激となった。
基本は高橋自らが練習を考案・組み立てているが、行き詰まった時などは菊妻監督が経験則に沿ったアドバイスを送る。コロナ禍で学内の練習場が使えない時期は、自宅を提供してトレーニングに打ち込ませるなど、まさに二人三脚で試行錯誤。「ここで練習できていることもそうですが、自分が競技に打ち込んでくれる環境を整えてくれる。それが本当にありがたい」と高橋も全幅の信頼を置く。
多数のアスリートを輩出するスポーツ強豪校での練習ならではのメリットも。天理大学トレーニングジムの責任者も務める菊妻監督の元には、柔道73キロ級の大野将平も以前からトレーニングの一環として訪れる。リオデジャネイロ、東京と五輪連覇した金メダリストらと練習空間を同じとする環境は、同じく五輪の舞台を狙う高橋自身にもポジティブに作用している。