信念を曲げた久保竜彦が決めた埼スタの劇弾 18年前のあの瞬間、舞い降りたジーコの顔
訪れた、その瞬間「ボールがパチンコ玉みたいに飛び跳ねて突然…」
気がつけば時計の針は後半アディショナルタイムに突入していた。焦燥感ばかりが先に立ち、冷静にゲームを進められる状況ではなくなる。大観衆の声援はいつしか大きなプレッシャーに変わっていた。
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スコアレスドローを覚悟した次の瞬間、チャンスが訪れる。一連の流れを回想する久保の言葉はとても流暢だ。
「しっかり覚えています。相手選手がヘディングで中途半端にクリアしたボールが俊輔(中村俊輔)に当たって、それがDFに当たってコースが変わって、自分の足下にこぼれてきたんです。ボールがパチンコ玉みたいに飛び跳ねて突然来たので『あれ?』ってなりました(笑)」
不意に転がってきたボールを左足でトラップし、間髪入れず振り抜いた。「時間が止まったような感じ」のシュートがファーサイドに決まり、日本に価値ある勝利をもたらした。
落ち着いて決めたように見える場面だが、コンマ数秒の間にさまざまな思いが駆け巡った。
「最初は思い切り足を振って『ぶち抜いたろう』と思ったんです。でもしっかりとしたパスではなくこぼれ球がたまたま来ただけで、一瞬の出来事だけど普通のリズムではなくて変な間がありました。本当はズコンと蹴り込んでやりたかったんですけどね」
舞い降りてきたのはジーコ監督の顔と声、それから毎日のシュート練習だった。
「練習では何度も何度も言われました。『コースを狙え。ぶち蹴るな』と(苦笑)。ジーコは言葉だけではなくて、めちゃくちゃ上手かった。フワーっとした軌道のシュートだけど、何回蹴っても同じところに飛ぶ。俊輔も似た感じで上手かったけど、ジーコが一番上手かったです」