運命を変えた「ナイス」の一声 サッカー元日本代表FWが「無敵になれた」小2の1試合
スペインサッカーに精通し、数々のトップアスリートの生き様を描いてきたスポーツライターの小宮良之氏が、「育成論」をテーマにしたコラムを「THE ANSWER」に寄稿。世界で“差を生む”サッカー選手は、どんな指導環境や文化的背景から生まれてくるのか。今回はA代表選手にまで上り詰めた3人を例に、少年時代からどこにでも転がっている“きっかけ”を掴む重要性について説いている。
連載「世界で“差を生む”サッカー育成論」:豊田陽平が小2で経験したきっかけ
スペインサッカーに精通し、数々のトップアスリートの生き様を描いてきたスポーツライターの小宮良之氏が、「育成論」をテーマにしたコラムを「THE ANSWER」に寄稿。世界で“差を生む”サッカー選手は、どんな指導環境や文化的背景から生まれてくるのか。今回はA代表選手にまで上り詰めた3人を例に、少年時代からどこにでも転がっている“きっかけ”を掴む重要性について説いている。
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サッカーは人生の縮図だ。
きっかけ次第で、すべてが転がり始める。もちろん、そのきっかけが一度ではプロには辿り着かない。しかし複数のきっかけを起こすには、1回目のきっかけが必要だ。
アルベルト・ザッケローニ、ハビエル・アギーレ、ヴァヒド・ハリルホジッチと3人の監督に日本代表として選ばれたストライカー、豊田陽平(現・ツエーゲン金沢)は小学2年生の時、そのきっかけを経験している。
石川県小松市に生まれた豊田は、同学年の生徒よりも一回り大きい体だったことで、1学年上の3年生のサッカーチームに所属した。ただ、最初から受け入れられるはずはなかった。上級生たちの妬みを受け、ボールをパンクさせられるなどのいじめを受ける日々を過ごしていた。サッカー自体が嫌いになりそうになった。
しかし、ある日を境に一変した。
当時、豊田は「体がでかい」という理由だけでディフェンスをさせられていた。試合中、裏に抜けたボールに対し、とにかく必死に体を投げ出し、スライディングタックルでインターセプトした時のことだった。
「ナイス!」
いじめっ子の上級生たちから、プレーを称える声が自然発生的にいくつも上がった。ピッチに立てば味方同士。チームのために尽くすプレーは、周りに掛け値なしに認められた。
「褒められた時の風景は、今でも鮮明に覚えていますね。紫のユニフォームを着ていたんですが、砂まみれになって。でも、どんどん『いいぞ』とか声がかかるから嬉しくなって、無敵になれた気がしました」
豊田はそう振り返っている。チームのために体を張って献身し、味方に必要とされ、気分が乗る。それは、忘れられない原風景となった。