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「だって、大輔やもん」 恩師も期待せずにはいられない、高橋大輔の“夢を見させる力”

隆盛を極める近年の日本フィギュアスケート界には、次々と新たな才能が頭角を現している。北京五輪でも男子シングルで鍵山優真が銀メダル、宇野昌磨が銅メダル、女子シングルでは坂本花織が銅メダル、そして団体でも史上初めて銅メダルを獲得と、素晴らしい結果を手にした。

2010年バンクーバー五輪での高橋大輔(左)と長光歌子コーチ【写真:Getty Images】
2010年バンクーバー五輪での高橋大輔(左)と長光歌子コーチ【写真:Getty Images】

連載「名伯楽のフィギュアスケート論」第6回、限界を超えるたびに強くなった姿

 隆盛を極める近年の日本フィギュアスケート界には、次々と新たな才能が頭角を現している。北京五輪でも男子シングルで鍵山優真が銀メダル、宇野昌磨が銅メダル、女子シングルでは坂本花織が銅メダル、そして団体でも史上初めて銅メダルを獲得と、素晴らしい結果を手にした。

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 そうした成功の土台を作った1人と言えるのが、数々のスケーターを育ててきた長光歌子コーチだ。高橋大輔を中学時代から長年指導し、2010年バンクーバー五輪での日本男子初の銅メダル獲得に導いた。そんな歴史を築いた名伯楽が語る「フィギュアスケート論」。今回は夢を見せることができるスケーターだったという、高橋の才能について改めて振り返る。(取材・文=小宮 良之)

   ◇   ◇   ◇

「(高橋)大輔は(試合の後に)死んだように寝ていることが多くて」

 長光歌子コーチはそう言って、フィギュア日本男子におけるパイオニア、高橋大輔の戦いの真実を語った。

「試合の次の日は、起き上がることができないほどになるんです。本当に死んでいるんじゃないかって、心配になるほどでした。(アイスダンスの)マリーナ(・ズエワコーチ)はそれを知らなかったから、びっくりしたようですね。そこまで(力を使い果たせる領域に)“行ける”というのが、一つの才能だと思います。ほとんどの選手はそこまで行けないので」

“死線”を越えられる。そうやって強くなれるのが高橋の才能だった。そこまでやり抜くことで、人々に夢を見せられた。

「ファンの方には、ジェットコースターって言われているくらいで、(競技人生は)アップダウンですよ。でも、“そんな物語を書いたら臭いな”って思うことをやってのける、次の予感を抱いてしまう、そんな選手ですね」

 長光コーチは小さく笑って、一つ髪をかき上げた。

 不世出の日本人フィギュアスケーター、高橋の実像とは?

――日本人男子初の五輪メダル、同じく世界王者まで勝ち取って、3度の五輪に出場。4年ぶりの復活で全日本選手権2位、転向2シーズン目のアイスダンスで日本人歴代最多得点を立て続けに塗り替える。高橋選手は、これだけのことをやってのけても謙虚で偉ぶらない。

「大輔は自己評価が低くて、自信なさそうなことを言うんです。でも、なんかやるんじゃないかっていつも思ってしまう。アイスダンスに転向した時も別競技だし、関係者が聞いたら鼻で笑う挑戦だったかもしれません。でも、彼に関わったことがある人は、いけるかもね、と思ったはずで。大口は叩かないのに、何かやるって思わせるものを持っているのは凄いなって思います。『だって、大輔やもん』って(笑)。彼は夢を見せてくれるんです」

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長光歌子

関大アイススケート部コーチ 
1951年生まれ、兵庫県出身。66年の全日本ジュニア選手権で優勝するなど選手として実績を残すと、引退後は指導者として多くのスケーターを育てる。高橋大輔を中学時代から指導し、2010年バンクーバー五輪で銅メダル、同年の世界選手権で優勝に導いた。フィギュアスケートをこよなく愛し、現在は関大アイススケート部コーチを務める。

小宮 良之

1972年生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。トリノ五輪、ドイツW杯を現地取材後、2006年から日本に拠点を移す。アスリートと心を通わすインタビューに定評があり、『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など多くの著書がある。2018年に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家としてもデビュー。少年少女の熱い生き方を描き、重松清氏の賞賛を受けた。2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を上梓。

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