高梨沙羅が追求する「日本刀で竹を斬る」速さ 10年来のトレーナーが知る進化の舞台裏
応用力を磨くために取り入れた、野球や柔道に必要な動き
「10代の頃は体力もあったし、結構ガンガン追い込んでいたんですよね。だけど、年齢とともに疲労というものを知るようになって、毎週試合もあるし、なかなか追い込めないようになっていったんですけど、今季に限ってはトレーニングで追い込みたいという本人の意向もあったりして、相当内容の濃い、ベーシックもやるし、ジャンプ寄りのトレーニングもするしという、ちょっと欲張りなトレーニングプログラムでした」
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牧野氏の脳裏には「ひょっとしたら途中でバテるかもしれない」との思いもよぎったほど。それだけ、高梨の今季にかける覚悟を感じ取った。
トレーニングメニューの作成には長年の蓄積による反省点も反映させた。2014年のソチ五輪は金メダル候補と目されながら4位。18年の平昌五輪では銅メダルを獲得したが、金メダル争いでは世界の強豪に圧倒された。話し合いの中で高梨と牧野氏の意見が一致したのは、“応用できる肉体”作りだった。
「頂を求めたんですよね。完璧なジャンプにするにはどういうトレーニングがいいんだろうって、ベーシックなところからジャンプ寄りの要素をメニューに入れてやって、そこを求めたんですけど、結果的にそれだと応用力がなかったんだなというのが、僕の中での解釈なんです。いろんなジャンプ台に対応できない」
ジャンプ台を急降下し、踏み切りで空中に飛び出して、飛型を維持しながら着地する競技。同じように見えても、当日のコンディション、精神面、雪の状態、風の強弱などさまざまな条件によって成績が変わる。そのなかで、安定して飛距離を伸ばすためには、悪条件に対応できたり、小さなミスを瞬時に修正できる、柔軟かつタフな体の軸が必要と判断した。
「ジャンプって凄い特殊だと思うんですよ。ジャンプ台の形状は違うし、移動して次の日に試合という時もあるから、下手したら公式練習3本でその台をマスターしなきゃいけない。凄い能力だと思うんですよね。でも、強い選手ってこの3本でなんとかものにして、結局いつも残っている上位のメンバーは同じ。いろんな台に対応できる能力はスキージャンパーとしてはすごく必要な能力」
応用力を磨くため、ジャンプに関係ない動きも取り入れた。例えば、ひねり系のトレーニング。野球や柔道の選手に必要な動作だった。