「モーグル→競輪→モーグル」原大智、競輪養成所の“退所寸前”で教官が目撃したド根性
再試験で不合格なら「必ず退所」、土壇場で見せた精神力
挫折も経験した。19年9月の試験ではタイムを切ることができず落第。合格できなかったのは、わずか3人だった。モーグルでは世界のトップ3に入ったものの、競輪は別もの。しかも3週間後の再試験に合格しなければ、「必ず退所になる」という崖っぷちだった。
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しかし、原はここでこらえた。他の2人とともに再試験をクリアし、競輪選手の道をつないだ。
大川教官は「絶対合格するぞ、というつもりでやっていた。練習しながらこちらには見せない不安はあったと思うけど、口にはしなかった」と精神力を称えた。
入所当時と比較し、体は見違えるようになったという。
「レッグプレスといって、足で重りを持ち上げるやつなんですけど、多い子で600キロ以上持ち上げる。普通の人が持ち上げる重さじゃない。原くんでも400キロ、500キロ上げたと思う。モーグルの人がそういうトレーニングをするのかと考えると絶対しないと思う。下半身はかなりがっちりしたし、上下のバランスもひと回り、ふた回り、入った時よりは大きくなったと思います」
モーグルとの二刀流が前提の原に対し、大川教官らが心配していたのが下半身のビルドアップだった。「下半身を主に鍛えているので、下半身が重くなるんじゃないかなとか、そういうところは自分もほかの教官も含めて懸念していました」と、筋量が増えることで、モーグルのエアのバランスに影響するのでは――と気にしていた。だが、のちにテレビ番組で原の発言を聞いた大川教官は、「モーグルだけより、ここに来て自転車、ジムトレーニングをやったおかげで体幹の強化と細かい動きができるようになったと言ってくれていた。それは良かった」と安堵した。
努力家で研究熱心。日の丸を背負って闘ってきた日本代表の振る舞いは随所に感じられた。「一人ひとりに対し言葉使いを含めて丁寧で、練習への姿勢は本当に一生懸命。天狗になるとかそういうのはなくて、周りに好かれているような感じでしたし、自分から自転車経験が豊富な子に質問もしていた。分け隔てなく、周りの候補者たちと1年間過ごしたと思います」と目を細める。