「モーグル→競輪→モーグル」原大智、競輪養成所の“退所寸前”で教官が目撃したド根性
「THE ANSWER」は北京五輪期間中、選手や関係者の知られざるストーリー、競技の専門家解説や意外と知らない知識を紹介し、五輪を新たな“見方”で楽しむ「THE ANSWER的 オリンピックのミカタ」を連日掲載。今回は2度目の五輪に臨むフリースタイルスキー・モーグル男子の24歳、原大智(日本スキー場開発ク)のストーリーを紹介する。
「THE ANSWER的 オリンピックのミカタ」#2 競輪選手になるため1年間の猛特訓
「THE ANSWER」は北京五輪期間中、選手や関係者の知られざるストーリー、競技の専門家解説や意外と知らない知識を紹介し、五輪を新たな“見方”で楽しむ「THE ANSWER的 オリンピックのミカタ」を連日掲載。今回は2度目の五輪に臨むフリースタイルスキー・モーグル男子の24歳、原大智(日本スキー場開発ク)のストーリーを紹介する。
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4年前の平昌五輪ではあっと驚く銅メダルを獲得。その後、競輪の道に進み、2020年12月にはプロ初勝利を挙げた。競輪選手になるために1年間を過ごしたのが、静岡県伊豆市にある日本競輪選手養成所。規律の厳しい寮生活で、原は何を学んだのか。モーグルに生きたものとは――。1年指導した大川眞護(まさもり)教官に聞いた。(取材・文=水沼 一夫)
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2018年平昌五輪のモーグルで日本男子史上初のメダルを獲得した原。帰国後は、地元東京・渋谷のセンター街で凱旋パレードを行うなど、一躍スターダムに駆け上がった。そんな当時20歳の新星が競輪の門を叩いたのは、翌19年4月。「やるからには、誰にも負けないようにベストを尽くしたい」と、すがすがしい表情で決意表明した。
同期は男子で約70人。原は通常の入学ルートではなく、世界規模の大会で優秀な成績を収めたアスリートが対象の「特別選抜試験受験者」として合格した。ちなみに通常男子は自転車経験者が「300人から400人受験して、65~66人が合格」、自転車未経験者が「60から70人受験して5人ほど合格」という難関だ。
自転車経験がない原は文字通り、ゼロからのスタートだった。入所したからといって全員が卒業できる保証はない。身体能力を買われたものの、「自転車は瞬発力や持久力が必要な種目。特に持久力がなかったのかなと少し感じていました」(大川教官)との理由で、最初の2~3か月は別メニューの調整だった。
「競輪というと、たかだか(距離は)1600メートル、2000メートルなんですけど、その中に凝縮されていますので、本当に日頃の練習で言うと、1日50キロから100キロくらい乗らないと体力がつきません」
技術を身につける以前の問題。指導は瀧澤正光所長が自ら行い、“質より量”を重視するハードな練習となった。
1日の生活は過酷だ。毎日午前6時半に起床。全員外に集まり、点呼から始まる。そして午後は、5時までびっしり「訓練」が続く。外出は2週間に1回で、スマートフォンの利用も決められた時間の中だけ。「基本的には月曜から土曜までは養成所で携帯電話を預かって、その時間だけ本人に預けて決められた場所で使用させるということ」(大川教官)。モーグル時代からは想像もつかない日々を送った。