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勤勉な日本人が見誤る指導の本質 スペイン戦術家が重視する“理論より人間性”の意識

「実戦と同じ状況を作れるか」が指導者の腕の見せどころ

 現場では熱量など、数値化が難しい「見えざるもの」が重要と言える。その点は、育成もトップも同じだ。

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「選手は、練習から“怖さ”を与えられなければならない。まずはトレーニングでガツガツと戦えているか。絶対にボールを取り返してやろうと、相手に食いつけていないと始まらない」

 リージョはトレーニングで選手を追い込む。

 例えば数的不利の展開、4対10という守備者を圧倒的劣勢に立たせた状況を作る。当然、守る側は厳しいが、そこでリージョは「男を見せろ!」と煽る。GKも使い、どう数的不利に対応するか。そこで守れると、ディフェンス全体が試合さながらに雄叫びを上げて盛り上がる。すると、リージョは今度、数的有利で点の獲れないFWをたしなめ、焚きつける。

 ガチンコ勝負だ。

「トレーニングで毎回、実戦と同じ状況を作り出せるか」

 それが指導者の腕の見せどころだと、リージョは言う。

「日本人は働き者だから、勤勉に動くことを教えられている。しかし、やたらと動き過ぎる。数十センチ立ち位置を変えるだけで問題を解決し、ボールを数メートル持ち運ぶことで局面はがらりと変えられる。トレーニングの中で、それを確認させられるか。例えば日本人は突破のドリブルはするが、ドリブルでボールを運ぶのは得意ではない。運ぶだけで視野はがらりと変わるし、動かすことで相手を動かせる。それでプレーは広がる。それを練習で認識できると、ボールを持てるようになるし、敵味方の位置も見えてくる」

 ボールプレーを続けることで、選手は自ずと鍛えられるという。例えば現在セルティックでゴールを量産している古橋亨梧は、神戸時代にその環境のおかげで飛躍的に技量を高めたストライカーと言える。

 指導者が優秀な選手を育てたいと思うなら、結局は己の人間性を磨く必要があるだろう。精神論のように聞こえるかもしれないが、指導は人間対人間の構造である。人間としてどうあるべきか、指導者もそこを積み上げるべきだ。

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小宮 良之

1972年生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。トリノ五輪、ドイツW杯を現地取材後、2006年から日本に拠点を移す。アスリートと心を通わすインタビューに定評があり、『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など多くの著書がある。2018年に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家としてもデビュー。少年少女の熱い生き方を描き、重松清氏の賞賛を受けた。2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を上梓。

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