勤勉な日本人が見誤る指導の本質 スペイン戦術家が重視する“理論より人間性”の意識
スペインサッカーに精通し、数々のトップアスリートの生き様を描いてきたスポーツライターの小宮良之氏が、「育成論」をテーマにしたコラムを「THE ANSWER」に寄稿。世界で“差を生む”サッカー選手は、どんな指導環境や文化的背景から生まれてくるのか。今回は元ヴィッセル神戸監督のフアン・マヌエル・リージョの言葉から、「指導」の本質に注目。戦術家として知られるスペイン人監督だったが、最も大事にしていたのは理論やメソッドではなく、現場の「空気」だったという。
連載「世界で“差を生む”サッカー育成論」:指導者の人間性が優秀な選手を育てる
スペインサッカーに精通し、数々のトップアスリートの生き様を描いてきたスポーツライターの小宮良之氏が、「育成論」をテーマにしたコラムを「THE ANSWER」に寄稿。世界で“差を生む”サッカー選手は、どんな指導環境や文化的背景から生まれてくるのか。今回は元ヴィッセル神戸監督のフアン・マヌエル・リージョの言葉から、「指導」の本質に注目。戦術家として知られるスペイン人監督だったが、最も大事にしていたのは理論やメソッドではなく、現場の「空気」だったという。
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指導者はどのように「指導」と向き合うべきなのか?
日本人指導者は勉強熱心で勤勉に思える。子供たちを意識し、とにかく新しいことを学ぶ意欲が強い。メソッドも好きだし、情報に対して基本的に敏感だ。
しかし一方で、情報を取るために情報を得ようとしてしまう傾向もある。
「もっと新しいトレーニングが見られると思った」
欧州や南米の指導者の現場などを見せてもらった日本人指導者が、しばしば口にする感想である。意外性のなさに落胆、物足りない様子だ。
しかしメソッドはあくまで方法で、問題を解決するスイッチではない。行間を読むような行為が、指導の本質だ。
「上の空でいるような選手には、目を光らせないといけない」
そう語ったのは、かつてJリーグのヴィッセル神戸を率い、現在はマンチェスター・シティでジョゼップ・グアルディオラ監督の参謀を務めるフアン・マヌエル・リージョである。
「クラブハウスに入る時の挨拶から、私は選手を試す。肩を強くつかんでみたり、わざと足を踏んでみたり、小突いてみたりする。そこでの反応で、彼らの気持ちを確かめる。気分が良さそうだとか、何か一人悩んでいることがあってイライラしているとか、練習に集中させるように持っていく。寝ぼけたままでは戦えないからだ」
リージョは「戦術家」として知られる。グアルディオラが師事を受けたほどの人物で、理論派の印象が強いかもしれない。しかし、彼は「フォーメーションは数字の羅列」と断言し、「トレーニングはメソッドではなく、その質や強度ですべてが決まる」という思考の持ち主である。彼ほど現場の「空気」を大事にする指導者はいない。