大阪桐蔭、慶大をまとめたアマ球界希代の主将 福井章吾が4年間でさらに進化した主将力
左中間へ逆転の3点適時打を浴びた6回、フラッシュバックしたあの仙台育英戦
慶大は173人の大所帯。主将の一言だけではまとめきれず、学生スタッフ、マネージャーとの連携が必須になる。そんな中、慎吾さんは息子のある記事が目に留まった。日本を代表する経営者・稲森和夫氏の著書「生き方」を読んだという内容。チームをまとめようと努力する姿に成長を感じたという。
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「最近、本を読むようになったそうで。文章、言葉から勉強しようという意識が出てきたのかなと思いました。今まで高校も大学もいい監督に恵まれて、たくさん勉強させてもらっているんですけど、それに加えてまた自分なりに少しずつ勉強したいと思っているのかなって」
4年間で逞しさを増した「主将力」。それを発揮する場面が訪れた。中央学院大との明治神宮大会決勝。慶大は東京六大学勢初の4冠(春・秋リーグ戦、全日本大学選手権、明治神宮大会)がかかっていた。
5-4の6回1死満塁。左中間へ逆転の3点適時打を浴びた。福井はマスクを外し、ボールが外野を転がっていく様子を呆然と見送る。一塁側カメラ席の後方のスタンドから見ていた私は、4年前のあるシーンがフラッシュバックした。
仙台育英との夏の甲子園3回戦。1点リードの9回2死一、二塁、内野ゴロだったが、一塁手がベースを踏み損ねた。最後のアウトを取り切れず、直後に左中間へ逆転サヨナラ打を浴びた。一塁側から捉えた捕手・福井の呆然とした表情。相手ナインが大喜びする一方、みるみると泣き顔に変わっていく。高校野球ファンなら何度も見た映像だろう。
4年の時を経た神宮。まだ6回。あの時とは違う。主将はすぐに切り替え、動いた。替わった投手をリードすると、打席では7回無死一塁に右前打。一塁塁上からベンチを振り返り、指を差して仲間を鼓舞した。守備でも7回2死一塁、二盗を阻止する好送球。ピンチの芽を摘んだその足でブルペンへ走り、控え投手たちとコミュニケーションを取った。
8-9の8回2死二、三塁で打席へ。託されたキャプテンは、空振り三振に終わった。一瞬だけ悔しい表情を見せたが、下は向かない。「ベンチはまだまだこれからだという雰囲気。みんなに切り替えさせてもらった」。8回裏の守備を終え、またブルペンへ走った。
「こんなことないよ! 一番いい時やぞ!」。あと1点。9回攻撃中、ベンチ前で声を張り上げた。防具はつけたままだ。「野球は何が起こるかわからない。最善の準備をする」。9回裏の守りがあることを信じた。