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サッカーと貧困からの脱出 海外選手の“ハングリー精神”を生む「戻らない覚悟」

モロッコのビーチで目撃した異様な光景

 10年以上前、筆者はバルサで一世を風靡したカメルーン代表FWサミュエル・エトーにインタビューしたことがあった。

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 エトーは15歳でレアル・マドリードにスカウトされたが、レンタル移籍したマジョルカで得点を量産するも、何年経っても呼び戻されることはなかった。結果として宿敵バルサへの移籍を決め、レアル・マドリード戦では劇的なゴールを決めた。メディアは「復讐ドラマ」と煽った。

 そこで、思い切って尋ねた

――あなたは自分を“飼い殺し”にしたレアル・マドリードに対する復讐心で、バルサで活躍できているのでしょうか?

「俺は純粋に、ビッグゲームに勝ちたいだけだ。マドリードを倒して復讐? 下らん発想だ。マドリードに迎えてもらって、俺はガキから男になれたし、扉を開いてくれたことに感謝している。アフリカから欧州へ渡るのに、“危険を冒さなければ成功は得られない”と覚悟して来た。毎日、アフリカからはボートピープルが生死を懸けてやって来る。それに比べたら、空港に降り立てた俺は幸せ者だ」

 エトーは言動こそ歯に衣着せず、自尊心も強烈だったが、人生を恨んでいなかった。すべてが自己完結。ほとんど本能的な成功者だったと言えるだろう。

 アフリカから這い上がってくる選手に、生半可な指導論や育成論など通用するはずがない。

「アフリカには野心だけで生きている選手が大勢いる。みんな力をアピールしようと必死さ。海を渡ったら戻らない覚悟で、俺も少年時代は“あのビーチ”でボールを蹴っていた。お前もあそこに行ってみたら、アフリカサッカーの源流が分かる」

 アフリカ史上最高のディフェンダーの1人で、デポルティボ・ラ・コルーニャで活躍した元モロッコ代表ヌールディン・ナイベトにも話を聞いたことがあった。

 筆者はその言葉通り、モロッコのカサブランカ、コルニッシュ地区のビーチを訪れたことがある。その日は天候が良く、対岸にあるイベリア半島、スペインを遠くに見渡せた。少なくとも数百人以上が、ビーチを埋め尽くすようにボールを蹴っていた。ペットボトルをコーナーに、ぼろぼろの上着やバッグをゴールポストに見立て、水を含んで重くなったボールを裸足で蹴る。年齢はバラバラ、レジャーか、トレーニングか、その境界線はない。熱意だけがあった。

「いつか必ず、アフリカサッカーの時代は来る。たとえ跳ね返されても、波のように押し寄せるから」

 ナイベトは不敵に語っていたが、そこで目にした光景は異様だった。

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小宮 良之

1972年生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。トリノ五輪、ドイツW杯を現地取材後、2006年から日本に拠点を移す。アスリートと心を通わすインタビューに定評があり、『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など多くの著書がある。2018年に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家としてもデビュー。少年少女の熱い生き方を描き、重松清氏の賞賛を受けた。2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を上梓。

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