なぜアスリートはこの社会に必要なのか 羽根田卓也が信じる「全人類で絶対無二」の価値
五輪メダリストとメディアの関係「僕は消費されるとは捉えていなかった」
新競技となった空手形の喜友名諒。金メダルを獲得した決勝直後のインタビューだ。
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「2、3分間で、彼が喋った言葉も文字数にしたら本当に少ない。ほとんど喋っていない。なのに、もう言葉が要らんな、と。こういうスポーツ選手、人間の生き方に言葉は要らんな、と。これがスポーツのあり方であり、一番の素晴らしさ。金メダルも凄いですが、それ以上の彼の生き様とストーリーが、ほんのわずかな文字数で全てが伝わった。これこれ、これだよ、と。こうあってほしいと、スポーツが伝える素晴らしさに感動しました」
たしかに、そのシーンは「感動的」であるとネット上でも話題になった。
注目の新競技において、沖縄出身初の金メダルの期待を背負った喜友名は、2019年に母・紀江さんを亡くしていた。およそ3分間のインタビューで半分近い80秒が言葉を発しない時間。3つ目の質問で「決戦の地、畳に感謝した。あの瞬間、どんな心境だったか」と問われると、15秒沈黙した。
「いろいろあるんですけど……」と言い、声を詰まらせた。うつむき、目を閉じ、言葉を探した。「今日だけは教えてください」と促され、口を開いたのは41秒後。「まずは母親にしっかり、優勝したよという報告をしました」と語った。その時間に、羽根田が言う「ストーリー」が表れていた。
羽根田は「喋っていない時間の長さと、表情と……。今、話していても涙が出そうです」と言った。
「表情ひとつで人生が丸々伝わる、それに感動できるって素晴らしいこと。スポーツ選手は結果を求めるのが一番のあり方。それを僕も求めてきましたが、自分の生き様とストーリーも大切にしています。日々の競技の向かい方や、真摯な想いはスタートの表情にも、ゴールした表情にも出る。特にインタビューではすべてが出るので。僕もそういうものを感じ取ってもらえるように一生懸命、五輪までの5年間、競技をしてきたつもりです」
今大会、多くのヒーローも生まれた。メダルを獲得した選手は引っ張りだこになり、テレビ各局を回り、人気タレントらと交流。一躍、その名を広く知られる存在となる。5年前のリオ五輪は羽根田自身がそうだった。「ハネタク」の愛称で認知され、女性誌の表紙も飾った。
刹那的な露出でメディアに消費される選手が生まれるのも事実。その距離感は課題だ。ただ、羽根田は「消費されるとは捉えていません」と語る。
「僕はカヌー競技を知ってもらいたくて頑張っていました。あの大会でやっと注目してもらえて、取り上げてもらえた。逆に『消費』という捉え方を皆さんするのかって、びっくりしたくらい。アスリートはタレントさんと違って、使われたら終わりじゃない。成績を出せば取り上げられるし、違う取り組みもすれば取り上げられる。メディアに関しては個人それぞれメディアへの考え方があると思います」
経験者として、東京五輪のヒーローたちに伝えたい言葉を聞いた。「僕のようなマイナー競技の選手は存分にメディアを活用し、自分の競技を知ってもらうこと。それが叶えば、素晴らしいと思います」と話した後で「ただ……」と付け加えた。
「露出が増えるほど、いろんな人がいろんな感じ方をするのも事実。競技への向き合い方、生き方が見られるようになる。一言一言、喋る言葉も気をつけないといけない。僕も反省を生かしながらこの5年間、メディアもSNSも付き合ってきました。メディアに興味ない選手もいれば、メディアで目立ってナンボの選手もいる。ただ、自分がメディアに出て何をしたいのか、しっかりと向き合ってお付き合いした方がいいと思います」
その言葉一つ一つが、令和のアスリートの貴重な助言になるはずだ。