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羽根田卓也が16日後に語った涙の理由 東京五輪延期決定、あの春から490日間のすべて

多くの感動と熱狂をもたらした東京五輪。日本は史上最多となる58個のメダルを獲得した。多くのヒーローが生まれ、一躍、メディアの注目の的に。しかし、その陰では、同じように自国開催に懸けながらメダルに届かず、大会を去った選手はそれ以上に存在している。「THE ANSWER」は彼らの挑戦にスポットを当てた連載「東京五輪 もう一つのストーリー」をスタート。夢舞台を戦い抜いた今の、それぞれの想いに迫る。

東京五輪10位となった羽根田卓也、競技後に流した涙の理由とは【写真:Getty Images】
東京五輪10位となった羽根田卓也、競技後に流した涙の理由とは【写真:Getty Images】

連載「東京五輪 もう一つのストーリー」第1回 カヌー羽根田卓也・前編

 多くの感動と熱狂をもたらした東京五輪。日本は史上最多となる58個のメダルを獲得した。多くのヒーローが生まれ、一躍、メディアの注目の的に。しかし、その陰では、同じように自国開催に懸けながらメダルに届かず、大会を去った選手はそれ以上に存在している。「THE ANSWER」は彼らの挑戦にスポットを当てた連載「東京五輪 もう一つのストーリー」をスタート。夢舞台を戦い抜いた今の、それぞれの想いに迫る。

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 第1回はカヌーのスラローム男子カナディアンシングル10位だった34歳・羽根田卓也(ミキハウス)。大会後、初めて取材を受けたというリオ五輪銅メダリスト。前編では「人生をかける」と公言した東京五輪、1年延期決定から競技当日までに過ごした「490日間」に迫る。苦しさを決して表に出すことなく前向きなメッセージを発信し続けた理由と、競技後に流した涙の意味とは。(取材・文=THE ANSWER編集部・神原 英彰)

 ◇ ◇ ◇

 東京五輪の競技から16日後。8月11日。進退を明らかにしていない羽根田はこの日も都内でトレーニングをこなし、一人で取材場所に現れた。

 激闘からしばらく。今、心にあるのはどんな感情か。ストレートな問いに、訥々と言葉を繋いだ。

「競技が終わって、4日後に退村しました。やっぱり退村すると、日常生活に戻った感じがしましたね。前回と違って、静かな退村だったので……。ただ、僕は東京五輪に対して、プレッシャーやネガティブな気持ちはあまりありませんでした。なので、単純に挑戦できた喜びと、一方で自分をずっと律してきた5年間、もっと言うと(ロンドン五輪からの)9年間だったので、ひと区切りした感じ、ですかね」

「もう気を尖らせる必要はない」と言う羽根田の表情は穏やかだった【写真:近藤俊哉】
「もう気を尖らせる必要はない」と言う羽根田の表情は穏やかだった【写真:近藤俊哉】

 本人が「もう気を尖らせる必要はない」と言う通り、自然体で穏やかさを感じさせる口調だった。

 羽根田がリオデジャネイロ五輪で銅メダルを獲得したのが2016年8月9日(日本時間10日)。そして、競技人生の集大成と位置づけた東京五輪を戦ったのが2021年7月26日。その5年間、日数にして「1812日」。

 今回、その期間を2つに分けて聞いた。一つは、リオ五輪から東京五輪に向け、挑戦を続けた3年半の「1322日」だ。ロンドン大会7位入賞に続き、挑んだ3度目のリオ五輪。「自分の生き方、人生。そういうものが実を結んだ日であり、それによっていろんなことが変わった1日」と振り返る。

 メディアに引っ張りだこになり、「ハネタク」の愛称で世間に広く知られることに。女性誌の表紙を飾り、高級自動車メーカーがスポンサーについた。競技に注目し、声援を送るファンも増えた。34歳で迎える東京五輪に向け、順風満帆だった。

「リオで結果が出て、競技の注目につながり、たくさんの応援も頂いて、凄く追い風が吹いていました。調子も凄く良かった。特に2019年からの1年あまりはここ数年で一番良い練習ができていて、本当に『いつでも東京五輪、来い』という感じ。そのくらいコンディションは良かったです」

 しかし、来いと思った東京五輪は来なかった。2020年3月24日、大会延期を安倍晋三首相が発表した。「テレビで見ていた記憶がある」という場面は「皆さんと同じように延期は覚悟していたので。驚きはなく、『中止じゃなくて良かった』が一番の感情」と回想する。

 延期決定から東京五輪まで、もう一つの期間「490日」の1日目が始まった。

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