五輪アスリートが訴えたSNS中傷問題 「死ね」と言われた元陸上選手の「戦わない」提案
「スルー」が第一の選択「ひと握りのアンチより応援者が圧倒的に多い」
だから、アスリートは「スルー」を第一の選択にすべきというのが秋本氏の考え。
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「カッとなって、ファイティングポーズを取って言い返さなくていいと思います。言ってくる人間はネット上で『いやあ、マジでむかつくわ』なんて言っても、面と向かってSNSに書き込んだことを直接言う人なんてほぼいないと思うんです。いざ選手の文句を言っても、後ろから登場してきたら『ファンです』と言ってしまうような。ストレスが溜まって“トイレの落書き”状態で咄嗟にその感情で書き逃げする人があまりに多い。
これを書いたらどうなるかが想像できない人があまりに多いと思うんです。スーパーで冷蔵庫に入ったり、食料品にいたずらしたり、友達が笑ってくれるという感情が先に来てしまって、その後に来るものを想像できない若者がいます。僕は文科省が学校教育にSNS教育を取り入れるところに来ていると思います。過去に逮捕されたり罰金を払ったり、不幸にも人の命を奪われることがあったとしっかりと示さなければいけません」
そもそも、ネットに上がる“大声”はマイノリティである可能性が高い。例えば、ニュースサイトのコメント欄に書き込むユーザーはページビュー(PV)数に対して100人に1人もいない世界だ。
「ひと握りのアンチを相手にするより、応援してくれる数の方が圧倒的に多い。なのに、ネガティブな声は目に付きやすく、たった1つの声が何千の声に思ってしまう。気にしない方がいいと言ってもそう簡単にできない人も多いと思います。ただ、誰からも好かれたいというイメージを作っている人は、何かの機会に猛烈な攻撃を食らったらメンタルがやられてしまうと思います」
誹謗中傷とともに、最近クローズアップされるのがメンタルヘルスの問題。
「一般の人はアスリートがみんな強いと思っている。アスリートは普段からきつい練習を耐えているから『叩かれることに慣れているんでしょ?』みたいな。東京五輪反対の世論がある中で結果を出せなかった人が攻撃される。特に、金メダルを獲れるだろうと期待された人。アスリート全員が全員、強いわけでもないし、弱いわけでもないんですが、気にしすぎない方がいいと何度でも言いたいです。
SNSの中傷を取り締まって根本的になくすことは難しい。AIで『死ね』『殺す』という言葉をキャッチできたとしても、より複雑な言い回しで嫌がらせをする人が出てくる。極論は『だったら、SNSをやらなければいいのでは?』ということ。背景には、SNSをやるスタンスもあると思います。例えば、フォローをゼロにして自分の哲学や自分の結果をただ発信するだけのアカウントにしてもいいと思います」
実際に「フォロー0」でツイッターを運用しているのが、東京五輪陸上女子1万メートル代表の新谷仁美。
「彼女は上手にやっている印象です。自分をメンタルコントロールする上で必要なことを分かっていて、外部の意見に極力触れないようにしている。多くの選手はファンと繋がりたい、自分が言ったことを評価されたいと思ってSNSを始めます。やる以上はリスクもあると知ってアカウントを作り、その教育も各スポーツ団体がやらなければいけない。ボタン1個でできるからこそ、覚悟を持ってSNSをやる時代になってきたと思います」