池江璃花子に贈ってくれたポストカードの秘話 記者が触れたショーストロムの優しさ
サラの思いを形に残せないか、託された「for Rikako」は池江の手元に
胸を痛めたのは、親友だけではない。親族や他の代表選手は言うまでもなく、メディアだってそうだ。東京五輪を目指す18歳を襲った病。彼女のために何かできないのか。私がショーストロムにメッセージを依頼したのは、手のひらをかざした表彰式の翌日のこと。レースのない休養日に契約メーカー主催の会見が開かれた後だった。
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各国の報道陣50人ほどが集まった会見。ショーストロムは、手のひらをかざした理由や池江に対する気持ちを赤裸々に明かした。彼女の思いを活字で伝えるだけではなく、池江のそばに形として残しておくことはできないか。会見前に報道陣に配布されていたのが、契約メーカーのグッズセット。その中に1枚のポストカードが入っていた。
これしかなかった。会見が終わって各自撤収する中、お節介は百も承知でスウェーデン協会の女性広報に話しかけた。つたない英語に怪訝(けげん)な表情をされたが、身振り手振りの間に詰めた「for Rikako」だけは伝わった。
その場で案内された部屋に入り、ショーストロムと対面。突然の申し出にも関わらず、真正面から応えてくれた。肩書きや体格の迫力と裏腹に、柔らかい笑顔が印象的な気さくな人だった。
「for Rikako」の思いを託された1枚のポストカード。汚れが付かぬよう大切にノートで挟み、「届けますよ!」と受け入れてくれた池江の関係者に渡した。池江にとって憧れで、目標でもあったショーストロム。親友の温かく、優しい思いを込めた直筆メッセージは無事に本人へと届けられた。
簡単には計り知れない闘病生活を経てたどり着いた東京五輪。池江は会場でショーストロムと再会し、涙を流した。そして今日、4本目のレースを泳ぎ切り、ショーストロムは50メートル自由形で銀メダルを獲得。400メートルメドレーリレー決勝では、2人が同じレースに出場し、夢の舞台で再び戦った。
立つことすら想像できなかった五輪を終え、池江は何度も涙を拭った。声を詰まらせながら、感謝の言葉をつないだ。
「この5年間は本当にいろんなことがあった。一度は諦めかけた東京五輪だったけど、またリレーメンバーとして決勝の舞台で泳ぐことができて凄い幸せだなって思います。結果を出せたわけじゃないけど、自分が出られるか、出られないかわからない状況からここまで来て、無事に五輪が開催された。またここに戻ってくることができて本当に嬉しいです」
ショーストロムにポストカードを託されてから740日が経った。五輪までの道のりにあった、遠く離れたライバルからの友情。「幸せ」という言葉を聞けて、とにかくよかった。
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)