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選手村で感じた「世界の不平等」 日本人五輪スイマーが引退後にユニセフで働く理由

人生で初めて道に迷いながらも「毎日がすっごく楽しい」という井本さん【写真:松橋晶子】
人生で初めて道に迷いながらも「毎日がすっごく楽しい」という井本さん【写真:松橋晶子】

「0.01秒」を縮めるために積み重ねた努力が活きた第二の人生

 求められる仕事は、赴任先の国や地域の状況により多岐にわたる。大地震で壊滅した教育現場の再建や心のケア、難民の子どもたち、帰還した子ども兵士たちの復学や地元コミュニティとの関係の構築。井本さんは「現場に立ち、目の前の問題を解決することで、自分の力が発揮できる」と、現場主義を貫いた。

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「色々な国で仕事をしてきましたが、皆、『出来ない』って結構すぐ言うんですよね。それに対して、私は『どうやったらできるかを考えよう』と言います。

 チームワークや、コミュニケーション力、リーダーシップなど、水泳から学んだことは仕事のあらゆる場面で生きていますが、いちばんはこの、『諦めない気持ち』です。

 選手時代、0.01秒を縮めるために、限界を超えるまで地道な努力を積み重ねてきたし、常に高いレベルのパフォーマンスを求められることで、精神力が鍛えられました。援助の世界にはもちろん、順位はないけれど、JICAやユニセフでも常に高い目標を持ち、努力し、追い込んできた自負はある。それが出来たのは、厳しい世界で競技を続けてきたからこそだと思います」

 JICA時代から数えて約18年、世界各国の過酷な環境下を渡り歩いてきた。現在は、東京オリ・パラのジェンダー・アドバイザーを務めるほか、SDGsやジェンダー平等の啓蒙活動の活動に取り組みつつ、穏やかな日々を送る。この休職期間は「次のステージに向けて学びを深める時期」である一方、「人生で初めて道に迷っている」とも話す。

「水泳を辞めてここまで、敷かれたレールに乗っかって走り続けてきました。でも今は、宙ぶらりんで大海原に放り出された感じです。取り組みたいことはたくさんあるけれど、休職後どうするかは、ユニセフへの復職を含めて自分でもわかりません。

 ただ、上司もいないし(笑)、やりたいことだけをやっていますから、迷っている割には毎日がすっごく楽しい。国際情勢ももちろん気になりますが、この1、2年間は少し立ち止まり、家族と自分のために時間を使いたい。そのうち、どうしても戻りたくなったら、またドロンといなくなります」

(終わり)

■井本直歩子 / Naoko Imoto

 3歳から水泳を始め、小学6年時に50m自由形で日本学童新記録を樹立。中学から大阪イトマンに所属。近大附中2年時、1990年北京アジア大会に最年少で出場し、50m自由形で銅メダルを獲得。1994年広島アジア大会では同種目で優勝する。1996年、アトランタ五輪に出場。千葉すず、山野井絵理、三宅愛子と組んだ4×200mリレーで4位入賞。2000年シドニー五輪代表選考会で落選し、現役引退。スポーツライター、橋本聖子参議院議員の秘書を務めた後、国際協力機構を経て、2007年から国連児童基金職員となる。2021年1月、ユニセフを休職して帰国。3月、東京2020組織委員会ジェンダー平等推進チームアドバイザーに就任。6月、社団法人「SDGs in Sports」を立ち上げ、アスリートやスポーツ関係者の勉強会を実施している。

(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)

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長島 恭子

編集・ライター。サッカー専門誌を経てフリーランスに。インタビュー記事、健康・ダイエット・トレーニング記事を軸に雑誌、書籍、会員誌で編集・執筆を行う。担当書籍に『世界一やせる走り方』『世界一伸びるストレッチ』(中野ジェームズ修一著)など。

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