松井大輔流、異文化への溶け込み方 最大の武器は歌&下ネタ「何度助けられたか…」
批判的な報道を封じ込めるためには「結果を出すこと」が重要
海外で僕たち日本人がプレーする場合は「助っ人」という立場になります。それはJリーグのチームに外国籍選手が加入するのと同じ状況で、彼らへの期待値はそもそも高いですよね。金銭面でも国内選手よりも投資していることが想像できるので、自然と期待値のハードルが上がっていきます。難しいのは時間的な猶予がたくさんあるわけではなく、勝負は加入直後やシーズン開幕からの数試合で何をできるかが重要になります。そこでしっかりと認めてもらうパフォーマンスを見せ、並行してピッチ外でも円滑な関係を築いていくのが理想と言えるでしょう。
【注目】育成とその先の未来へ 野球少年・少女、保護者や指導者が知りたい現場の今を発信、野球育成解決サイト「First Pitch」はこちら
そういえば先日、フランスのマルセイユでプレーしている酒井宏樹くんが批判されている現地報道を目にしました。指摘されていたのは「言語の問題」だったけど、これはチームとして結果を出せていないことによる粗探しだと思います。これまで酒井くんは素晴らしいパフォーマンスでチーム内外からの評価を獲得していましたが、マルセイユが結果を出せない状況になると突然こういった報道が出てしまうのが海外であり、「助っ人」という立場です。反対に言えば、結果さえ出せば批判を封じ込めることもできるわけです。
話を戻しますが、僕自身は今、これまでのさまざまな経験を経てベトナムの地で新たなチャレンジをしています。アジア圏ということもあって食事に困ることはないですし、たとえばスパ施設なども充実しているので私生活の面でのストレスはありません。それにピッチ内の公用語は英語なので、ベトナム語の難しい発音に手を焼く心配もありません(苦笑)。
そしてサイゴンFCではチームにプラスαをもたらす役割を求められています。ひとりの選手として結果を残すことはもちろん大切だけど、これまでの経験に基づいてワンランク上のサッカーを伝えていくことで自分自身の価値を高めていきたい。練習ではなるべく身振り手振りを加えて具体的にサッカーを教え、ドリンク休憩中にはホワイトボードに図を描いて説明することもあります。
僕のアドバイスをきっかけに選手が変化していく姿を見るのはとてもうれしい。もっと良い見本や手本になっていきたいし、それは僕自身に課せられた役割だと思っています。若い頃は自分のことだけを考え、自分が頑張ることでチームのためになると思っていました。決して間違った考えではないけど、年齢とキャリアを重ねたことで立ち位置が変わり、今ではもっと俯瞰した視点でチームやクラブを見ているつもりです。
でもチームはなかなか結果を出せず、早くも今シーズン2回目の監督交代と苦しい時間を過ごしています。新たなチャレンジには生みの苦しみがつきもので、そういった時こそ自分のような立場の選手がピッチ内外でしっかりとした立ち居振る舞いを見せなければいけません。次回は現況を含めたその辺りの話をしたいと思います。
では、また来月お会いしましょう。松井大輔でした。
■松井大輔
1981年5月11日、京都府生まれ。サッカーの名門、鹿児島実業高校を卒業後に京都パープルサンガ(現・京都サンガ)でプロキャリアをスタートさせる。2004年にフランス、ル・マンへの海外移籍を皮切りに、ロシア、ブルガリア、ポーランドでプレーし、Jリーグではジュビロ磐田、横浜FCでプレーした。日本代表としても活躍し、ベスト16に輝いた2010年南アフリカワールドカップにも出場。今年1月からは、ベトナムのサイゴンFCで新たなチャレンジを行っている。
(藤井雅彦 / Masahiko Fujii)