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世界一過酷なヨットレースを完走 最強のチームを作った白石康次郎の“モテモテ理論”

話題を呼んだ「鬼滅の刃」の羽織姿【写真:DMG MORI SAILING TEAM提供】
話題を呼んだ「鬼滅の刃」の羽織姿【写真:DMG MORI SAILING TEAM提供】

強く共鳴した少林寺拳法の先生の言葉

 20代前半で心に刻んだ“人生のコンパス”がある。造船所で基礎知識、技術を学ぶ傍ら、少林寺拳法を習った時期があった。先生が初稽古の時に諭した言葉に強く共鳴したという。

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「少林寺拳法がいくら強くなっても、世の中で何の役にも立たないよ。どんなに強くても千人の敵と戦ったら勝てっこない。宮本武蔵がいくら強かったといっても、彼は世の中を変えられなかった。しかし、千人の敵と戦って勝つ方法が一つだけある。それは、おまえのためだったら一緒に戦ってやろうと言ってくれる仲間を千人以上つくることだ」

 白石はワクワクがいっぱいに詰まった笑顔で「こんなバカいないでしょ。一緒にバカしませんか」と手を差し出す男だ。夢を実現するために30年以上の月日をかけた。「下手で時間がかかる」というヨット技術の向上とレースでの実績作り。数十億の資金が必要なスポンサー集め。陸から支援する優秀な各国のスタッフの勧誘。ともに夢を追いかけ、知恵を出し合う仲間の輪を大きく広げた。白石はその歳月を振り返り、こう言葉にする。

「資金集めは人間界の大冒険。『おまえだったら何億か出してもいいよ』って人間にならないとね。人間界と自然界。地球全体を楽しむレース。それがバンデ・グローブ。30年はそれに見合う人間になるために必要な時間だったと思う」

 一人で見た夢は、みんなで見る夢となり、実現させた。今レースは、サムライ姿で出航、年始には獅子舞のぬいぐるみをかぶり、ヨットの甲板で大人気アニメ「鬼滅の刃」の主人公の羽織姿で木刀を振る動画もアップして話題となった。レース開始直後の泣きたくなる大惨事にも、笑いを忘れなかった不屈のサムライ。ゴール後の記者会見で、海外メディアからは「どんなメンタルトレーナーをつけて、心を鍛えているのですか」と問われた。白石はいたずらっぽく笑い、口を開いた。

「生まれてこの方変わらないです。子供の頃から変わらなかったのが良かったと思います」

 メンタルトレーナーの存在は「ノン」。フランス人たちを陸でも驚かせ、楽しませた。生まれつきのスマイルは予測不可能で魅力的。そして、モットーは「世の中を明るく元気に!」。そこに国境はない。イスラエルの船乗りから感動したというメッセージが届き、白石の大ファンになったフランスの小学生たちが寄せ書きを贈りたいという“熱烈オファー”もあった。コロナ禍の2020~21年。極東の海からやってきた53歳のサムライセーラーは記録を超え、温かく、まぶしい“笑みの記憶”をヨットの本場に残した。

(占部 哲也 / Tetsuya Urabe)

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