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「実力が名前に追いついていなかった」 “選手権のスター”北嶋秀朗が輝けた理由

ブラジルへのサッカー留学やユース年代の日本代表での経験を経て、北嶋は「ようやく自分の居場所を見つけた」という【写真提供:大宮アルディージャ】
ブラジルへのサッカー留学やユース年代の日本代表での経験を経て、北嶋は「ようやく自分の居場所を見つけた」という【写真提供:大宮アルディージャ】

ブラジルで目の当たりにした、あるブラジル代表選手の生き様

 こうしてプロ2年目で念願のプロ初ゴールを挙げると、そのシーズンの11月からブラジルへのサッカー留学の機会を得た。サッカーの本場で、北嶋は生き残りを賭けた男の生き様を目の当たりにする。弱肉強食の世界だった。

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「サンパウロFCのユースチームに練習参加したんですが、紅白戦に出場できない自分と同じ立場のジュリオ・バチスタ(編集部注:その後、レアル・マドリードやローマで活躍)という選手がいました。片言のポルトガル語で話していたら、彼は『オレはここから這い上がるから』と言い切っていた。すると紅白戦に出場するチャンスがやってきたときに1分か2分で点を取って、次の紅白戦でもゴールを決めて、ユース年代のチームが集まる大会でスタメンに抜擢された。彼は後にブラジル代表まで上り詰めるんですが、どん底に近い位置から結果を残してステップアップしていく姿を見て、人間は変わろうとすれば変われるんだなと思いました」

 貴重な体験を血肉に変え、迎えたプロ3年目はサッカー選手としての足場を固めていくシーズンに。背番号はストライカーナンバーの「9」に昇格し、自分の形でゴールを重ねていく。

 ゴールパターンが高校時代から様変わりしたのは、偶然ではなく必然だった。ドリブルで相手を抜き去るのではなく、体を張ってDFを背負いながらボールキープし、なんとか味方へパスをつなぐ。豪快にゴールネットを揺らすミドルシュートは、混戦で相手よりも一瞬だけ早くボールに触れるダイビングヘッドに変わった。

「高校時代は泥臭いゴールが好きじゃなかったんです(苦笑)。美しいループシュートやドリブルで相手をかわして決めるシュートで得点を量産したいと思っていました。それにヘディングが嫌いでしたから。痛いし、競り合うのも好きじゃなくて。でも西野朗さん(当時のヘッドコーチ)にニアサイドに入っていくスピードや才能を認められて、そこに重点を置く練習をしたんです。最初は『オレは華麗に点を取りたいんだよ』って思いました(笑)。でも、だんだんとヘディングで点を取るコツを覚えたら、すごく楽しくなって。それからはずっと泥にまみれる役目です」

 形こそ変われども、ゴールの快感は同じだった。シドニー五輪出場を目指すU-22日本代表に選出されるようになってからは「柳沢敦さんや高原(直泰)と競争するようになって、これは全然かなわないなと。もっと成長しないとダメだなと痛感した」と新しい壁にぶつかったが、ライバルとの競争は純粋に楽しかった。

 北嶋は変化を受け入れられるようになっていた。意識を変え、プレースタイルを工夫し、プロの世界で生き延びる術を身につけたのである。

「プロサッカー選手として生きていくためのプレースタイルを確立して、ようやく自分の居場所を見つけることができました」

 対比されるのはいつも高校時代の自分で、輝かしい栄光が重い足枷に。そのたびに苦悩と葛藤を繰り返したが、ようやく呪縛から解き放たれた。高校サッカーからプロサッカーへ。北嶋秀朗はひとつの“答”を見つけ出し、それが新たな一歩へとつながった。

(25日掲載の後編は、「怪我と一緒に歩む」をお届けします)

北嶋秀朗

1978年5月23日、千葉県生まれ。市立船橋高校時代に、全国高校サッカー選手権大会で2度の優勝、得点王に輝いた。卒業後に柏レイソルへ加入。プロ3年目からはチームのエースとして活躍、2000年にはキャリアハイとなる18ゴールを挙げた。柏レイソル、清水エスパルス、ロアッソ熊本と3クラブでプレーし、2013年に現役を引退。指導者の道へ進み、2020シーズンは大宮アルディージャのトップチームコーチとして、後輩たちの指導にあたった。17年に及ぶ現役時代のJリーグ通算記録は303試合出場、73得点。

(藤井雅彦 / Masahiko Fujii)

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