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ラグビーW杯の真実 日本代表の「分析官」が1年後に明かしたアイルランド撃破の裏側

日本代表アナリストとしてラグビーW杯8強入りに貢献した戸田尊氏、現在は九州電力のヘッドアナリストを務める【写真提供:九州電力キューデンヴォルテクス】
日本代表アナリストとしてラグビーW杯8強入りに貢献した戸田尊氏、現在は九州電力のヘッドアナリストを務める【写真提供:九州電力キューデンヴォルテクス】

日本代表の躍進を支えたアナリストの仕事とは?

 ここで、アナリストの仕事を簡単に説明しておこう。アナリスト、つまり分析担当スタッフの主だった職務は、先ずは自チームや対戦相手を、試合や練習で得たデータや映像などを使って分析、数値化することだ。そして、タックル回数、成功率のような算出された情報、データから導き出されるプレーの傾向をコーチ、選手に提示することだ。W杯という最高峰の大会へ向けては、抽選会で対戦相手が決まった時点、場合によってはそれ以前から、数年というスパンで分析作業が続くことになる。

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 福岡市内の中学からラグビーを始め、福岡工高―福岡大と主にHOとして楕円球を追った戸田氏は、同大大学院に進学する。スポーツ科学を専攻する中で、同大のコーチも務めている。

「とくに分析のための先生がいたわけじゃなかった。ハンドボールの先生の下で分析自体はやっていました。当時のラグビーは、まだ2時間の練習で選手全員が同じメニューをやっていました。でも、ラグビーの中身を見ると、それぞれのポジションに必要な体力は違ってくる。なので、どうトレーニングを最適化できるか、必要な体力をつけられるかをテーマに研究していました」

 コーチとして必要性を感じた分析を、大学院での研究でも取り扱うことでアナリストとしての専門性やノウハウを高めていった。助教授だった2013年に大阪を拠点とするNTTドコモ・レッドハリケーンズから誘われてアナリストの道に進んだことが、人生のシナリオを大きく書き変えることにつながった。

 ドコモで5シーズン目を迎えた2017年、日本代表HCに就任したジェイミー・ジョセフが国内チームを巡回視察する中で、当時ドコモを率いていた元南アフリカ代表PRタヴィー・セロンHCから「アナリストでおもしろいスタッフがいる」と推薦されたことが代表入りにつながり、選手としては辿り着けなかったW杯という夢舞台に立つことになった。

 アナリストとしてW杯へ向けて準備を進める中で、大会2年前に対戦相手が確定したことで最大のターゲットが定まった。過去に1度も勝ったことがないアイルランドとの対戦が、目標にかかげるベスト8、つまり決勝トーナメント進出への重要な一戦だということは、戸田氏をはじめチームの誰もが認識することになった。

 この試合に敗れると、日本のベスト8進出はスコットランドとの一騎打ちで決まる可能性が高まる。チームにはスコットランドとも十分に戦える自信はあったが、前回大会でも8強入りを争い、直接対戦で敗れた相手であり、2016年の対戦でもホームゲームで2戦2敗と勝てていない。アイルランドに敗れた場合に、勝つために重要なチームの信念や誇りに、どのようなネガティブな変化が生じるかは未知数だった。だからこそ、アイルランドに勝って、ベスト8の可能性を大きく手繰り寄せることがマストと位置付けられていた。

 対戦が決まった直後から、アナリストチームは、アイルランドがどのような戦い方で日本に挑んでくるかを分析することに着手した。戸田氏が当時を振り返る。

「試合までには、アイルランドの勝ちゲームというのがどういう展開なのかは、ある程度把握していました。ボールポゼッション(ボール保持)を1度渡してしまうと、なかなかミスをしない。長い時間ボールをキープしながら、対戦相手にプレッシャーをかけていく傾向がありました。さらに、マイボールのスクラムやラインアウトから、相手にシンプルに圧力をかけていく傾向も理解していました」

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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