【One Rugbyの絆】聴覚を頼りにボールを繋ぐ ブラインドラグビーがぶち壊す「先入観」という壁
初心者ばかりの日本代表「まずは自分自身を知ることから始めました」
視覚障がい者にとって大事なコミュニケーションツールは「音」となる。仲間の掛け声、手を叩く音、人が走る時に鳴る重低音など、耳から得た情報を元に、距離感やスピード感などを推し量る。また、弱視といっても、見え方はそれぞれ。相手選手がぼんやり見える人もいれば、まったく見えない人もいる。また、視野の外側が見えづらい人もいれば、中央が見えない人もいる。
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「まずは自分自身を知ることから始めました。顔の前だったらボールを取りやすいのか。胸の前だったら取りやすいのか。それが分かったら、自分がボールをほしい位置で手を叩いて音を出す。パスをもらう人は声を出して呼びますが、ボールを投げる人も『投げるよ、投げるよ、今投げた』と声を掛けないと、どのタイミングでボールが来るのかが分からない。だから、練習や代表合宿中は、常にコミュニケーションを取る癖をつけようと、何でもいいからずっと喋っていよう、と口が酸っぱくなるくらい言い続けました。すると、だんだん会話が増える中で、初心者同士で『あそこのプレーはこうした方がいいんじゃないかな?』ってコミニュケーションが取れるようになったんです」
イングランドとの国際テストマッチでが、言われなければ選手たちが視覚障がいを持つことは分からないほどの動きを披露。彼らの姿は視覚障がい者にラグビーはできないという先入観を壊すには十分過ぎるものだ。
「僕は視覚障がい者の方に杖や道具を持たなくても、自分の体一つでできるスポーツがあって、そこから学ぶことは多いんだよ、ということを伝えていきたいのと同時に、晴眼の方に視覚障がい者の中には杖を持たない、街中で一見すると障がい者には見えない弱視の人もいるんですよ、ということを伝えていきたいですね。そうすることで、晴眼の方と視覚障がい者の間にある壁をなくしていける、そのきっかけになるスポーツでありたいと思います」
現在、日本での競技人口は25人ほど。コロナ禍で中止されていた練習会や体験会は10月から再開し、コロナ対策をとりながら、これから徐々に普及活動を広げていく予定だ。また、小中学校や高校、視覚障がい者の特別支援学校などを訪問し、体育の授業の一環としてブラインドラグビーを紹介しながら、子どもたちと障がいについて考える時間も設けていくつもりだ。
いろいろな種類のラグビーが集まる「One Rugby」というムーブメントについて、神谷さんは「ラグビーという一つのスポーツとして、皆さんで力を合わせて広めていこうよっていう動きが、率直にすごい活動だなと、初めて聞いた時に思いました」という。ブラインドラグビーを世に広めたい思いもあるが、同時に「他の障害を持った人たちがやるラグビーや障害を持たない人たちがやるラグビー、すべてを通じて学んだことをブラインドラグビーに生かしたり、One Rugbyという活動に生かしていきたいですね」と話す。
現在、パラリンピックの正式種目に認定されているラグビーは車いすラグビーだけだが、将来的にはブラインドラグビーもパラリンピックで行われる競技の一つになれるよう尽力していきたいという。
「パラリンピックの舞台に立つことで、弱視や視覚障がいを持つ人たちに希望を与えられるようになると思うんです」
まだまだ夢のような話かもしれないが、目標は大きく掲げて前に突き進む。
【神谷さんが見る「車いすラグビー・デフラグビー」のここがスゴイ!】
去年、実際に車いすラグビーの試合を見に行ったんですけど、あの衝撃、試合の迫力はすごいなと。あと、デフラグビーですね。僕らが頼りにしている音が彼らは聞こえなくて、僕らにはない目が彼らにはある。目が見えていても音がない状態で、どうやってコミュニケーションを取っているのか。ましてデフラグビーはタックルがあるので、どうやってプレーしているのか興味がありますね。
(THE ANSWER編集部・佐藤 直子 / Naoko Sato)