スケート教室に「入会1年待ち」 中野友加里が訴える“待機選手問題”のリアル
スケートリンク問題、「数がたくさんあればいい問題ではない」の真意
――やはりスケートリンクは維持費がネックになります。
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「なかでも、光熱費が一番高いと聞きます。あとは24時間貸し出すこともあるので管理する人件費がかかります。私自身も現役時代は深夜2、3時に貸し切りで練習することもありました。収入としては一般の入場料やスケート教室もありますし、選手たちも施設使用料を支払っています」
――日本の環境面についてお聞きしましたが、“待機選手”の問題については多くの子供たちに競技に触れてもらう機会損失が生まれ、強化という点においてもフィギュアスケート界にとってデメリットがあるように感じます。この点についてはどう感じますでしょうか?
「私はバランスが難しいと思っています。例えば、愛知が強くなった理由は先ほども言ったように、スケートリンクの数を含め、あまり良い環境ではなかったことが強くなったと感じます。一方で、たくさんのリンクがあって『いつでも練習していいですよ』となると、逆に選手たちは環境に甘える可能性があるとも思います。『いつでも練習できるからいいか』というような。リンクで誰も滑っていない時間があって、もったいないと感じることがないようにあってほしいと願います。
だから、一番は環境を持て余すことなく、最大限に有効活用するということ。数がたくさんあればいいというだけの問題ではないと私は思います。維持費もかかりますし、リンクが増えて選手が増えれば、その分、コーチの人数も増やさないといけない。指導してほしいコーチに集中しても良くないし、逆にコーチばかりがいて選手がいないというのも困るので、バランスは非常に難しいと感じています。ただ、今は待機選手がいる現状。あとほんの少しリンクの環境が良くなり、待機選手が解消されることが理想だと思います」
――スケートリンクを増やすべきという議論は起こりますが、まずは与えられたところで何ができるかを考えながら、施設環境と競技環境の両輪を回していくということが大事ですね。そのためにも、まずはこうした問題に光が当たり、広く認識される必要があります。
「競技人口は増えていますが、スケートリンクは減っている。それは好ましくないことであり、待機児童選手を生み出している一つの要因。増やすことは難しいにしても、現状維持することが大事だと思います。スケートはいつか辞める時が来ます。辞めたら新しい子供たちが入ると繰り返されていけば、空いた枠が常に埋まっていく。だから、減らしてはいけないということは強く思っています。
待機児童選手はすぐ簡単に改善されない問題だとは思いますが、子供たちがトップ選手に憧れて始める心意気は素晴らしいことだと思います。この先もフィギュアスケートの人気は続いてほしいと思いますし、そうやって羽生選手のようになりたい、次の世代の紀平梨花選手、鍵山優真選手のようになりたいと始める選手たちが絶えず、スケートリンクの門を叩いてほしいと思います」
(27日掲載の後編は「女子選手の競技寿命」問題)
■中野友加里
1985年生まれ。愛知県出身。3歳からスケートを始める。ジュニア時代から活躍し、シニア転向後は06年四大陸選手権2位、07年冬季アジア大会優勝、08年世界選手権4位など国際大会で結果を残した。全日本選手権は3度の表彰台を経験。10年に引退後、フジテレビに入社。スポーツ番組のディレクターとして数々の競技を取材し、19年3月に退社。現在は解説者を務めるほか、審判員としても活動。15年に結婚し、2児の母。
(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)