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スケート教室に「入会1年待ち」 中野友加里が訴える“待機選手問題”のリアル

元フィギュアスケーターの中野友加里さんが「THE ANSWER」のインタビューに応じ、「フィギュアスケート界のリアル」について語った。前編は「スケートクラブの“待機選手問題”」だ。

羽生結弦らの登場で人気が高まるフィギュアスケート界が抱える“待機選手問題”とは【写真:Getty Images】
羽生結弦らの登場で人気が高まるフィギュアスケート界が抱える“待機選手問題”とは【写真:Getty Images】

中野友加里インタビュー「フィギュアスケート界のリアル」前編

 元フィギュアスケーターの中野友加里さんが「THE ANSWER」のインタビューに応じ、「フィギュアスケート界のリアル」について語った。前編は「スケートクラブの“待機選手問題”」だ。

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 前回、6月に行ったインタビューで「今、保育園の待機児童みたいに“待機選手”の存在があるんです」と語った中野さん。浅田真央、羽生結弦らの登場でフィギュアスケートの人気が高まった一方、スケートリンクは減少傾向にあり、フィギュアスケートを始めたい子供たちがスケート教室、スケートクラブに入れず、入会待ちの子供たちが多くいる現状を明かした。

 当時、ファンの間でも反響を呼んだ問題提起。今回はさらに深く考えを聞いた。現在は審判員としても活躍する元トップ選手がフィギュア界の現場で起きている課題への想いとは――。

(聞き手=THE ANSWER編集部・神原英彰)

 ◇ ◇ ◇

――フィギュアスケートは近年、テレビ中継も当たり前になり、メジャー競技の一つとして認知されるようになった一方、競技環境としては中野さんが課題を感じている“待機選手問題”もあります。今、フィギュアスケート界の現状についてどう感じていますか?

「フィギュアスケートは私たちが始めた頃はマイナー競技。スケートを習い事にする、あるいは本格的に挑戦する人が少ない競技でした。まして世界で戦おうと思っても、歴史を辿ると白人が有利になりやすかったり、逆にアジア人は勝ちにくかったり、人種の問題があった時代もありました。しかし、伊藤みどりさんを筆頭に世界で戦える選手が出てきました。少し前まではスケートを習うならトップを目指すのが当たり前の時代でした。しかし、今はクラシックバレエ、英会話教室のように習い事の一つとして始める子供が増えています。

 それは、マイナースポーツからメジャースポーツになった証しでもあります。そういう中から実は秘めた才能を持ち、将来的にトップで戦う選手が生まれるかもしれない。金の卵がどこにいるか分からないくらい、たくさんのスケーターがいると思います。そんな風にフィギュアスケートをやってみよう、やらせてみようと思うお子様、親御さんの心意気が皆さんの中に目覚めたということが、メジャースポーツになった実感でもあります。フィギュアスケートに携わる者として、とても嬉しく思っています」

――一方で、競技の未来を考える上で避けて通れないのがスケートリンクの問題。“待機選手”が多いと言われる東京で、通年で滑ることができるスケートリンクは現在4つ。人気を支える受け皿としては足りず、中野さんが言うように子供たちがスクールに入りたくても入れない現状があります。

「現在、私はスケート連盟に所属していますが、以前、会議でどこのクラブにも属することができない子供たちを集めたクラブがあると聞き、驚きました。それくらい競技人口は増えていながら、スケートを習いたくても教室に入ることがまず難しい。浅田真央選手、羽生結弦選手に憧れ、始める選手が増えていることは喜ばしいことですが、スケートリンクは維持していくのが大変な環境です。

 最も負担が大きいのは設備など維持費の問題。コロナの影響で難しさも増し、東京も高田馬場にあるリンク(シチズンプラザ)は来年1月でなくなる予定です。1つ減ると何が起こるかというと、その教室に入るために待っている子ども以外も、もともと高田馬場で練習していた子たちも新たなリンクを探さないといけない環境になってしまう。さらに既存のリンクに人が溢れかえって場所の取り合いになり、可哀想な状況になってしまいます」

――フィギュアスケートの練習環境の難しさは施設の数が少ないことも要因ですが、30メートル×60メートルの氷の上を速いスピードで不規則に動くことが求められ、一斉に大人数で練習する……というのが難しい特性があります。

「私は大学入学と同時に愛知から新横浜のスケートリンクに移り、朝6時から選手たちが貸し切りで練習できる環境がありました。最初は6時に行っても数人しかいなかったのですが、だんだんとフィギュアスケートがブームになる時期と重なり、50人から多い時は60人くらいが入って練習することがありました。そうなると何が一番怖いかというと、怪我です。人とぶつかって危ないと思うと、存分に練習ができません。

 特に、フィギュアスケートは音楽に合わせて演技をする競技。人数が多いと、限られた時間内にそれぞれが曲をかけて練習することができません。そうすると、練習の質が下がり、能力が上がりにくくなる。私は音楽あってのフィギュアスケートだと思っていますし、環境を整えるには人数制限が必要になります。私自身は30人でも多いと思っていましたが、人数を絞って練習できる環境が理想ですね」

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中野 友加里

THE ANSWERスペシャリスト フィギュアスケート解説者

1985年8月25日生まれ。愛知県出身。3歳からスケートを始める。現役時代は女子史上3人目の3回転アクセル成功。スピンを得意として国際的に高い評価を受け、「世界一のドーナツスピン」とも言われた。05年NHK杯優勝、GPファイナル3位、08年世界選手権4位など国際舞台でも活躍。全日本選手権は表彰台を3度経験。10年に現役引退後、フジテレビに入社。スポーツ番組のディレクターとして数々の競技を取材し、19年3月に退社。現在は講演活動を行うほか、審判員としても活動。15年に一般男性と結婚し、2児の母。YouTubeチャンネル「フィギュアスケーター中野友加里チャンネル」も人気を集めている。

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