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なでしこ長谷川唯は「毎日の練習」が幸せ 1つの目標に依存しない新アスリート思考

「目標は何個もあった方がいい」の真意

 冒頭の「『落ち込む』が分からない」発言は、そんな話を聞いた時のこと。

「楽しいことが基本的に好きで、プライベートも周りがあまり盛り上がっていなくても、一人で楽しんじゃうタイプ。性格的に有利かもしれない」。ずっと行きたかった店に足を運んで、定休日だったとしたら「『あー』とは思うけど、すぐに『別の店、探せばいっか』と思っちゃうタイプ」と笑う。

 実際に、その思考はボールを追いかける過程で、どう築かれてきたのか。

 サッカーをやっていた兄の背中を追いかけるように小1から競技を始めた。中学から日テレ・ベレーザの下部組織にあたる日テレ・メニーナに入団。年少選手ながら主力を掴み、18歳以下の全日本ユース選手権優勝に貢献するなどメキメキと頭角を現し、16歳だった13年にトップチームでリーグ戦デビューし、翌14年にはU-17W杯で3得点を挙げ、日本代表を大会初優勝に導いた。

 17年に20歳でフル代表デビュー。今や、広い視野と類まれなパスセンスで、女子サッカー界を代表する顔の一人になった。その人格形成を振り返ってもらうと、「自分でも分からないけど、もともとこういう(落ち込まない)性格でした」と言う。

「家ではのびのびと生きて、自由に過ごさせてもらい、両親も口出しせず、サッカーで毎日送り迎えしてもらっていました。だからといって、アドバイスとかはなく『自分のやりたいようにやって』という感じで、やらせてもらっていて。試合後に『ここをこうした方がいいよ』と言われるのもイヤなタイプだったので、小学生の頃から、褒めて、褒めて……褒めてもらいました(笑)」

 聞いていると、奔放で、苦労知らずのように見えるかもしれないが、そうではない。裏では、壁にぶつかりながら、努力してきた。そんな経験を次世代の後輩たちに話す機会があった。6月22日、登場したのは「オンラインエール授業」なるものだ。

「インハイ.tv」と全国高体連が「明日へのエールプロジェクト」の一環として展開。インターハイ中止により、目標を失った高校生をトップ選手らが激励し、「いまとこれから」を話し合おうという企画で、現役なでしこジャパンが“先生”になった。

 印象的だったのは中学になり、日テレ・メニーナ入団当初のエピソードだった。中学1年から高校3年の世代が一緒にプレーするチーム。同世代の中でさえ小柄だった長谷川は、試合に出れば、敵味方合わせて22人の中でいつも一番小さかったという。

 ただ、どんな現実に直面しても、できない理由より、できる方法を考えた。当然、落ち込んでいる暇はない。アプローチはシンプルだった。「どれだけ相手にぶつからずにプレーするか。一番大事なことはポジショニングと考えていた」と振り返る。

「それまでは感覚でやっていたけど、こういう状況で考えることが求められた。ただやるだけだったら通用しないから。どこに立てばボールを持つ時、相手に触れられないか、前を向けるか。もちろん、苦労はあったけど、そのおかげで高校生の頃には今のプレースタイルができたし、背が大きくなくて良かったと思っている。短所も今は長所として捉えられるようになっているので」

 今回のインタビューを実施したのは、その授業後のこと。特定の目標に依存しない思考は、今の高校生に生きるのではないか。「もう引退する子がいて、捉え方が少し変わってくるので難しさはある」と前置きしながら、長谷川なりの考えを述べた。

「目標は1つではなく、いくつか……というか、何個も持っていた方がいいのかなと思います。1つの目標がなくなってしまうと、目指すところがなくなり、気持ちが落ちてしまうけど、細かい目標がいくつもあると『それを達成するためには、まずこれをしないといけない』と、どんどんつながって、やることがむしろ多すぎてできないくらいだと思うので、その目標設定は大事です」

 転じて、今、その目標設定の方法は、実際に自分に対して、どう課しているのか。

「1つ目は日テレ・ベレーザで優勝すること。ただ、優勝するためと考えると、たくさん出てきます。今は新しいシステムでプレーすることもあるので、そのために自分の役割を何かを考えてプレーする。今はもう目標を無意識に設定できている。大きい目標には五輪、W杯があるとしたら、代表に選ばれるためにはチームで結果を出して……と、どんどん枝分かれして目標が増えていく」

 そして、最後に行きつく結論はいつも一緒。「明日の練習、どう頑張ろうかな」。これが、長谷川の場合、最良のモチベーションになる。

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