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ESPNで全米放映された高校野球「日本のフィールド・オブ・ドリームズ」は何を伝えたか

番組を見た米国育ちの息子の感想「日本の高校生のほうがもっと…」

 もうひとつのシーンは父子の姿だ。

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 前述したように、このフィルムのタイトルは「Japan’s Field of Dreams」だ。「Japan’s」を外せば「Field of Dreams」となり、ケビン・コスナーが主演し、1989年に公開されて大ヒットした映画のタイトルになる。本家の「Field of Dreams」は、現実と幻想が交差する物語で、野球を通じて、ケビン・コスナーが亡くなった父との関係を再生していく話。この映画だけでなく、米国の野球は「父から子へ」を話の芯にしていることが多い。

「Japan’s Field of Dreams」では、横浜隼人高の水谷監督が、高校に進学する息子を、自分が監督するチームではなく、花巻東の佐々木監督の元へと送り出す。親子関係を完全に切り離して、他の部員と全く同じように接するという難しさがあるだろう。大切にしているチームの和に影響が出るかもしれない。それに、日本には「かわいい子には旅をさせろ」ということわざもある。

 一方、米メジャーリーグのアストロズで活躍し、殿堂入りもしているクレイグ・ビジオは、息子たちの高校時代だけ、その高校の野球部のコーチ(監督と同義)を務めた。ビジオは長く現役選手だったこともあり、引退したときには上の息子たちはもう10代になっていた。息子たちの育成に関わる最後の機会と捉えたのかもしれない。その息子のひとりであるキャバンは2019年にブルージェイズからメジャーデビューを果たしている。日本では、緩和されたとはいえ、プロアマ協定による資格回復講習を受けなければ、指導できないなどの制限がある。

 信頼できる他人に託す水谷監督、息子たちの在籍期間だけ野球部の監督を引き受けたビジオ。これも日米の違いを示すもののように感じられた。

 時に厳しい口調で指導しているが、野球への情熱と、選手ひとりひとりに愛情を持って接する水谷監督。その水谷監督を通じて、フィルムは伝統的な日本の労働観、家族関係を見せる。そして、水谷監督と師弟関係にあり、より若い、花巻東の佐々木監督へと登場人物が変わる。新しいものも取り入れ、選手の髪型も自由にするという佐々木監督の試みと水谷監督がやや対比的に描かれている。

 毎年、問題になる投球過多や熱中症の問題にはそれほど焦点が当てられていない。

 私事で恐縮だが、一緒に見ていた高校生の2人の息子は米国育ちだが、同年代の野球部員の気持ちの揺れは、共感できる部分があったようだ。違いとしては「日本の高校生のほうがもっとひとつのことに打ち込んでいる」という感想を漏らしていた。

 インターネットを見た限りでは、長文の感想を書き込んでいる人はいないようだったが、よいフィルムだったという好意的な感想が多いように見受けた。

 米国、日本、中米、カナダ、豪州、欧州、アフリカなど。それぞれの文化と教育理念の影響を受けて、選手は育成されている。それでも、メジャーリーグにやってくれば、チームメートになり、優勝目指してプレーをする。こういったドキュメントによって、育成観の違いの距離を知りながら、勝利を目指してともに戦う姿も見ることも、私にとってはメジャーリーグやNPB観戦のおもしろみだ。このドキュメントを見た米国人も、そのような楽しみ方をしてくれる人がいれば、うれしい。

(谷口 輝世子 / Kiyoko Taniguchi)

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谷口 輝世子

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情を深く取材。近著に『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのか――米国発スポーツ・ペアレンティングのすすめ』(生活書院)ほか、『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)『子どもがひとりで遊べない国、アメリカ』(生活書院)。分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店)。

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