「もう、私のような思いをさせたくない」 大山加奈が子供の未来に寄り添い続ける理由
「オンラインエール授業」で涙ながらに高校生に語った言葉
バレーボール界は昔ながらのスパルタで、勝利を求められる指導が少なくない。その重圧から「負けたらどうしよう」「ミスしたらどうしよう」と次第に負の感情が心を覆い、いつしか大会に背を向けたくなる。苦しさから発せられた言葉は「胸に刺さった」という。単に、彼女の感情が想像できたからだけじゃなく、この声が1人だけのものじゃないと想像できたから。
「今のバレーボール界なら、そう思っている選手は少なくないんじゃないかと感じました。それがとても悲しいし、そんな思いをさせてしまっている大人たちは責任を感じなければいけないと思いました」
正直、かけてあげる言葉が見つからなかった。しかし、ツイッターでこの出来事を紹介したところ、同調する声が上がった。すると、同じ高校生からメッセージが再び届き、「私だけじゃなかったんだと思えた」と前向きな言葉を目にした。その言葉に、救われたと同時に「私にできること、私がやるべきことはそういう子供を作らないことだと思っています」と思いを新たにした。
自分ができること、やるべきこと。それを感じ、賛同したものの一つが「オンラインエール授業」だ。
「インハイ.tv」と全国高体連が「明日へのエールプロジェクト」の一環として展開。インターハイ実施30競技の部活に励む高校生をトップ選手らが激励し、「いまとこれから」を話し合おうという企画だった。4日に行われた授業で、大山さんは“先生”として画面越しに全国のバレー部員32人と向き合った。参加を決めた理由も、明快だった。
子供たちのために何ができるか、日々考えている中で舞い込んだ依頼。すぐに「やらせていただきます。少しでも力になれることがあれば」と二つ返事で引き受けた。なかでも、印象的に映ったのは高校生と10回近くあったやりとりの第一声はすべて、「それはすごい」「私もそうだった」などと“褒める”もしくは“共感”で反応していたこと。
こんなところにも大山さんらしさを感じさせた。理由について「まずは共感してあげることと肯定してあげることを指導の中でも大切にしています」と明かしたが、一方で「今日は途中から意識しなくても自然にそうなった。『すごいな』『立派だな』と感じさせられるばかりです」と高校生の頼もしさに目を細めた。ただ、1時間に及んだ授業の中で一瞬、思いが溢れた場面があった。
1人の女子部員から、こんな質問を受けたシーンだった。
「この期間で練習をすることができません。不安、焦りが出てきているのですが、どう気持ちの切り替えをしたらいいですか?」
もっとバレーに打ち込みたいという前向きな気持ちあるからこそ生まれる「不安」と「焦り」。大山さんは「私はこういう経験はしたことないので、特別なアドバイスをしてあげられるかというと、してあげられないのが正直な気持ち」と言葉を選びながら、率直に思いを明かした。最も心配していたのは「怪我」だった。
「練習が再開し、焦って頑張りすぎると、怪我につながる。それが今、本当に心配です。みんながバレーボールできてうれしい、頑張りたいと思ってくれる前向きな気持ちは本当にうれしい。だけど、怪我をしてしまうと、大好きなバレーボールができなくなってしまう。まずは自分の体をしっかりと観察し、見てあげる。足が張ってるなと思ったら、絶対に無理をしないこと」
今まで練習ができていなかった分、急に強度の高いバレーボールの動きをすると、負担が大きい。だから、自分と向き合いながら、体と相談すること。そう話していくうちに、かつての自身の体験と重なった。
「私も状況は違うけど、怪我をしてバレーボールができない期間が長かった。すると、やっぱり焦るんです。周りはどんどん上手くなるし、ポジションを失っていく。それで焦って完全に治らないまま復帰して、また怪我をして私は結局引退することになった。みんなにこれ以上、同じ思いをしてもらいたくないので。頑張りすぎないこと、焦らないことを大切にしてほしいです」
話している最中、画面に映った大山さんの目は潤んでいた。