【今、伝えたいこと】ちょっと口下手な五輪金メダル候補 フクヒロが「感動を与える」と言わない理由
安易に「感動を与えたい」なんて言わない、フクヒロが表現できる姿とは
廣田も「延期になってショックはあった」としつつ、「不安な気持ちよりも、東京オリンピックで金メダルという目標があるので、そこはぶらさずに今できることを精一杯やれたら」と前を向く。
今、何ができるのか。ランニングや自宅でトレーニングをしたコロナ禍の日々。1年延期は基礎練習で底上げができる時間が増えたとプラスに捉えている。
代表争いも来年5月までに延長。フクヒロは今年3月の全英オープンで初優勝するなど、最大2枠の選考レースは1番手で“当確”の立場は変わらない。18年から所属したアメリカンベイプ岐阜の運営会社が経営難となり、今月4日には同じ岐阜の新設チーム「丸杉Bluvic(ブルビック)」への移籍を発表。再スタートの準備は整った。
世界ランク2位で東京五輪金メダルの期待も大きい。取材の機会も増え、苦手分野の“伝える”と向き合う2人。今回の連載で最大のテーマである世の中に「今、伝えたいこと」を問われると、福島は「凄く難しい」と言葉を詰まらせた。
時折、画面から視線をそらしながらも、声を繋いでくれた。
「何ができるかって言われたら正直何もできないですけど、試合が開催されるようになった時に自分たちができることは、精一杯、一生懸命やること。直接何かできるわけではないですが、その姿を見て少しでも元気になってもらえたらいいなと思う。いいニュースを届けられたら一番いいのかな。それを精一杯やりたいと思います」
スポーツの魅力について、2人は「感動」と口を揃えた。他の団体競技を見て感動をすることも多いという。福島は「高校生の試合でも優勝のシーンを見ると、鳥肌が立つくらい感動する。自分も頑張ろうという気持ちが凄く出てくる」と力にする。仲間とともに一瞬に懸ける姿に胸を打たれた。
自身は多くの人に見られる立場。注目が集まるほど、発信力は高まっていく。しかし、「感動を与えたい」なんて言葉は安易に口にしなかった。
「感動を与えるとかではなく、自分の姿を見て同じように『私も頑張ろう』って思ってもらえると嬉しい。感動を『届けるために』というわけではなく、自分のできることを精一杯やって、その人に頑張ろうという気持ちが芽生えてくれたら嬉しいです。それがもう“届いている”ということなのかなと思います」
廣田も同じだ。3月中旬の全英オープン優勝後、友達や先輩、母校の先生からもらった連絡が印象的だった。「今こういう状況だけど嬉しかった」「元気になったよ」。意図したわけではないが、結果的に明るいニュースを届けられたことで嬉しくなった。
「(コロナ禍で)自分たちに何ができるかというと、本当に何もできないと思う。でも、そういう言葉をもらえたことで自分たちも凄く嬉しかったので、誰か一人にでも伝わればいいなって思いました。単純に『バドミントンって面白いな』だったり、少しでも元気になってもらったり。届けようとするのではなく、自分の精一杯の姿を見てもらって何かを感じてもらえれば」
無力感を抱いたコロナ禍。自分に何ができるのだろうか。口下手な2人でも表現できるもの。それは、バドミントンに懸けながら「頑張ろう」の芽を育むことだ。
■福島 由紀(ふくしま・ゆき)
1993年5月6日生まれ。熊本・八代市出身。164センチ。9歳で競技を始め、中学時代は全国ベスト16。青森山田高3年時にインターハイ女子シングルス準優勝、ダブルス優勝。実業団のルネサス入り後に廣田とダブルスを組み、2017年から3年連続で世界選手権銀メダル。
■廣田 彩花(ひろた・さやか)
1994年8月1日生まれ。熊本・和水町出身。170センチ。5歳で競技を始め、玉名女子高を経て13年にルネサス入り。福島とのダブルスで徐々に開花。福島とともに再春館製薬所、岐阜トリッキーパンダース(現アメリカンベイプ岐阜)を経て丸杉Bluvicへ移籍。
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)