【今、伝えたいこと】「事実は変えられない」 体操男子監督・水鳥寿思、「2021年東京五輪」に向かう覚悟
スポーツ選手や関係者が自宅トレの動画配信「スポーツをする人が増えるとうれしい」
広く世界を見回しても、軒並みスポーツイベントが中止となっている現在、人々とスポーツが疎遠になっている印象が強いが、視点を変えてみると今こそスポーツをより身近に感じてもらうチャンスだと水鳥氏は言う。
「いろいろなスポーツ選手や関係者が、自宅で過ごしている子どもや大人に向けて動画コンテンツを配信して、自宅でできる運動を推奨してくれているので、今までスポーツに取り組まなかった人たちに『こんなに身近にできるんだ』という気付きを与えてくれていると思います。いざスポーツをするといっても、今までハードルが高かった人もいると思うんですよね。その場所にいけないとか、仲間がいないとか、高価な用具が買えないとか。でも、この機会に自宅でこんなに手軽にできるということが広まって、スポーツをする人が増えるとうれしいですね」
同時に、行動を制限される今があるからこそ、生まれる感動や気付く価値もあると期待する。
「実際にスポーツをしたり試合を観戦できるようになった時、今の反動から大きな感動や喜びを感じられると思います。僕も怪我をした後、久しぶりに体操ができた時の喜びは本当に大きかった。限られた現役生活の中で1日1日の練習を本当に大切にしようと強く思いました。改めて気付くスポーツの価値ってありますよね。健康であることに対する関心も高まり、そのアプローチの1つとしてスポーツや運動が注目される可能性もあるでしょう」
水鳥氏は、新型コロナウイルスの影響を受ける現在を「社会が怪我をしているような状況」と例える。その上で「これは必ず回復するもの。今は辛いかもしれませんが、数か月後には今より視界が開けているはずなので、そこに向けて準備を進めていきたい」と話す。体操男子日本代表監督としても、今はもう前しか向いていない。
「体操男子にとっては有意義な時間になると思うので、しっかり活用して、来年の五輪では素晴らしい演技ができるようにしたいと思っています」
2021年の活躍を、今から楽しみにしておこう。
■水鳥 寿思(みずとり・ひさし)
1980年7月22日生まれ、静岡県出身。両親は元体操選手、5男1女の6人きょうだいのうち5人が体操選手という体操一家で育った。幼稚園の頃から父の経営する「水鳥体操館」で体操を始め、高校は関西(岡山)へ進学。3年生の時に全国高校選抜大会の個人総合で2位となった。99年に日体大へ進学。02年に左膝の靱帯を損傷する大怪我を負ったが、04年にアテネ五輪代表の座を射止め、団体金メダル獲得に大きく貢献した。北京五輪、ロンドン五輪の出場を目指したが、12年に引退。史上最年少の32歳で日本体操協会の体操男子団体監督、強化本部長に抜擢され、15年世界選手権では37年ぶりの団体優勝、リオ五輪では12年ぶりの団体金メダルに導いた。
(第3回はケイリン・脇本雄太が登場)
(THE ANSWER編集部・佐藤 直子 / Naoko Sato)