十種競技の日本記録保持者・右代啓祐が明かす “恩人”武井壮から受けた「衝撃」
倒立で操れなかった自分の身体「あ、俺、何も考えていなかったな」
大学時代にはインカレで優勝し、自己ベストは7512点をマーク。日本の十種競技界ではすでにトップで争っていた男だ。それだけに技術以前に、自分の身体さえコントロールできていない事実に気付かされた衝撃は大きかった。
「本当に雷が脳天を直撃したような衝撃を受けましたね。『あ、俺、何も考えていなかったな。見た目ばかりに囚われていた』って。イメージのままに逆立ちをしていたけど、ちゃんと逆立ちするにはいろいろなセンサーを働かせなければならなかったのに、そのセンサーがなかったんです」
この気付きをきっかけに、自分の体や競技との向き合い方を改めると、記録が飛躍的に伸び始めた。そして2011年6月、日本陸上競技選手権大会混成競技で8073点をマークし、日本人初となる8000点超えを果たした。そして、翌2012年には、日本人として十種競技では1964年東京五輪の鈴木章介以来となる48年ぶりの五輪出場を実現させた。「いろいろな方の影響を受けましたが、武井さんとの出会いは大きかったですね」と感謝の言葉を紡ぐ。
今でも練習の様子は必ず動画で撮影し、確認しながらメニューを進める。「昔は動画を見て、自分の感覚は当てにならないってショックを受けることもありました」と笑いながら振り返るが、映像として客観的に自分の姿を見ることで、1つ1つの練習が持つ意味を考えるようになった。
「自分の感覚と客観的な視点を合わせることは、特に大事にしています。映像を見て、何が課題で何を強化すればいいのか理解した上で次のステップに進まないと、基礎がない状態で応用に走ることになる。着実に積み上げるためにも、トレーナーや練習パートナーと一緒に映像を確かめ、意見を聞きながら、自分で見る能力を養っていくことが大切ですね。適当にやる練習をなるべく減らして、できるだけ緻密に、何のためにこの練習をやるのか、練習の狙いを考えながら取り組んでいます」