選手を陰で支えるフィジカルトレーナー その役割とアプローチの“極意”とは?
詳細な見立てをして体の動きや変化を自覚できると、メニューの「信頼度」もアップ
しかし、残念ながらあまり感謝されることがありません(笑)。故障を治す仕事は一目瞭然ですが、動作の改善、ましてや障害予防となると結果が分かりにくい。「中野さんのトレーニングは本当に効いているの?」などと言われることもしばしばです。
ですから、選手や監督には、何のためにこのメニューをやるのか、いつ頃、どう体が変化していくのかを明確に、そして本人がイメージできるようシンプルに道筋を立てて伝える工夫をしています。ただ、トレーニングメニューを組んで課すだけでは、選手のやる気にもつながらず、上手くいきません。最初にスペシフィック(詳細)な見立てをし、その通りに体や動きの変化を自覚できると、選手のモチベーションが上がり、メニューの信頼度も上がります。
近年では青学大の駅伝チームが連覇を達成したことで、彼らに指導した体幹トレーニングが話題になりました。でも、私が指導を始めた当初は、「安定するとフォームが良くなり、走りも良くなる」と伝えていたものの、1回2回では何も変わらないので、原晋監督も半信半疑だったと言っています。「走りが変わってきた」「腕の振りが良くなっている」と監督が気づいたのは、最初のトレーニングから4か月後、8月の夏合宿のこと。その頃には真剣に取り組んでいた選手はタイムも上がり、体幹トレーニングが必要とされた意味も理解できたようです。
スポーツの結果は、積み重ねてきたトレーニングの量や質、モチベーション、経験、環境など様々な要因が重なり導かれるもの。ゆえに、フィジカルトレーナーの仕事は非常に評価されにくい。それでも体のことをあれこれ考える日々に、面白さとやりがいを感じます。人の体を「ゼロからプラスにする」。私はこの仕事が大好きです。
【了】
長島恭子●文 text by Kyoko Nagashima