「人生を変える」五輪へ 空手の絶対女王・植草歩が敗戦で取り戻した“無冠の輝き”
空手界のためを思い出場した全日本、敗北後に師範からかけられた言葉
5年ぶりに真ん中から一歩ずれた表彰台に立った全日本選手権。この直前、帝京大の香川政夫師範に声をかけられた。「疲れただろう」。いつもなら負ければ厳しい指摘が飛んでくる。「怒られると思ったけど、あんなに優しいことを言われて涙が止まらなかった」。重圧を吐き出すように、こらえていたものが溢れ出した。
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大会1週間前のPLマドリード大会で初戦敗退。東京五輪代表選考レースでは2番手以下を大きく引き離しているが、元世界女王として不甲斐ない結果に終わっていた。全日本選手権は有力選手が多く欠場。植草は大会4日前に帰国したばかりだったが「子供たち、ファンの方に空手の楽しさを伝えたい。自分が空手界を盛り上げないといけない」と強行出場を決めた。
「師範も出場しないと思っていたから『あっ、出場するのか』という気持ちだったと思う。5連覇するかもしれないし、負ける可能もあった。出場しなくても(五輪選考の)ポイントには関係ないし。負けてしまったら、自分はきっといろんな人に言われるのもわかっていて全日本に出た」
そんな愛弟子の思いを師範は慮ったのだろう。直接は言ってもらえないが「お前のこと褒めていたよ」と人づてに伝えられた。
「師範には『もう休みなさい』としか言われてないです。『休んで冷静になって、自分で考えなさい』と。自分の中でも、あそこ(敗戦直後)で言われても考え切れなかった。一週間は次にどうやって空手をやるか考えるより、一度空手から離れたのですっきりしました。
空手界のために出場したこと、自分のその精神、自分の挑戦した気持ちが良かったと、師範の周りの人に言われた。個人戦だけでも良かったので団体戦にも出場した。団体もずっと試合に出なくてもよかったのに、試合に出た。誰かのためにしている姿勢を師範に評価してもらったんだと思います」