指導者が変われば、子どもは変わる ビジャレアルに学ぶ「人」を育てる育成術
久保建英(現在はマジョルカ所属)が移籍したことでも注目されたスペインリーグのチーム、ビジャレアル。育成に定評があるこのチームでも、2014年から大規模な指導改革を行ってきた。教え込むのではなく、選手が自ら考えるための指導へ――。指導者たちは改革の中で、何を考え、どう変わっていったのか。ビジャレアルで指導・育成改革に携わり、日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)常勤理事を務めた佐伯夕利子氏に伺う。(取材・文=ドットライフ・粟村千愛)
ビジャレアルで指導・育成改革に携わった佐伯夕利子氏インタビュー
久保建英(現在はマジョルカ所属)が移籍したことでも注目されたスペインリーグのチーム、ビジャレアル。育成に定評があるこのチームでも、2014年から大規模な指導改革を行ってきた。教え込むのではなく、選手が自ら考えるための指導へ――。指導者たちは改革の中で、何を考え、どう変わっていったのか。ビジャレアルで指導・育成改革に携わり、日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)常勤理事を務めた佐伯夕利子氏に伺う。(取材・文=ドットライフ・粟村千愛)
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佐伯氏がスペインリーグのフットボールクラブ・ビジャレアルの指導者となったのは2008年。2014年から佐伯氏を含む120名の指導者たちの、指導改革が始まった。
日本でも、プロサッカー選手になり現役で長くプレーを続けることは簡単なことではない。南米や欧州のサッカー大国では、それはさらに熾烈を極める。イングランドの150万人のフットボーラーのうち、プレミアリーグでプレーしているのはたった180人、0.012%というデータもあるという。よって、プロ選手になるためには、ほとんどの時間をひたすらサッカーに費やすことが求められるのだが、そんな現実とは裏腹に、チームで教えられるのはサッカーの戦術やスキル。引退後のネクストキャリアにまで目を向けると、選手ではなくなった彼らは突然その後の人生を自分で切り開いていかなければならなくなるのだ。
フットボーラーではなく、人を育てよう。そこで学んだことは必ずフットボールにも生きるはず??。そんな考えから、選手の人生を通したキャリアをサポートしようと始まったのがビジャレアルの指導改革だった。「教える」のではなく「自分で考え判断できる」選手の育成へ。改革を進めてきたビジャレアルは2021年5月、ヨーロッパリーグ初優勝を成し遂げた。
指導改革の道のりは指導者たちにとって容易ではなかった。
「私たちの当たり前、スタンダードを崩された後に起こったのは、指導者はただ黙ってベンチに座り込むだけ、という現象でした」と佐伯氏は話す。
「これまで私たちがやっていたことは、実はとても簡単なことだったんです。私たちの視点から見た私たちの答えを一方的に選手たちにインプットしているだけ。『右サイドバックは何メートル先に立っていろ』『そこから12メートル離れた先でセンターバックはカバーをしろ』『この選手がこう動いたら、こちらに下がって来い』……。そんな“答え”を事細かに、あたかも絶対的な解であるかのように伝えてきたのです。
選手が何を見てどう感じたのか、どういう選択肢があったのか、その中からなぜそのひとつを選んだのか。選手一人ひとりにアプローチをして、それらの答えを聞いたことがあったでしょうか? そんなこと、まったくしてこなかったんです。だから、座り込むしかなかったのです」
120人ほどいた当時のビジャレアルの指導者たち。中には「そんなバカなことはありえない。それじゃチームは勝てない」と反発、拒絶し、そのままチームを去る人もいたという。ただ一方で、好奇心を持ち「やってみよう」と考える人もいた。自分の指導を直視し、他者のフィードバックを受け入れ、学びの一歩を踏み出したことで、改革が動き出した。