高校の部活指導で感じた“モヤモヤ” 元Jリーガー森山泰行、53歳で学ぶ選手主体の理論
名古屋時代の恩師ベンゲルの指導に通じること
森山氏が畑氏のもとを訪ねたのは、浦和学院高監督時代に一度、ボトムアップ理論について話をしたことがあったからだ。監督2年目の夏、順天堂大出身者が指導するチームの交流戦に遠征し、当時、安芸南高監督だった畑氏と会っていた。
「懇親会で近くになったので、ボトムアップ理論ってどんな感じなんですかって聞いたら、社会貢献につながる、社会に通用する人財育成だと、サクッと説明してもらったくらいでした。久しぶりに会って、自分の中で引っかかっていたところを聞きました。浦和学院高でも選手主導でやろうとして上手くいかない部分があったこと、自分の身近で起こったこと、気になる社会問題だとかを話したら、よかったら勉強してみないかと誘ってもらったんです」
畑氏が教職をやりながら2015年に設立した「一般社団法人ボトムアップパーソンズ協会」ではこの夏、ともに理論を広く伝える人を育てるエキスパートコーチ養成講座を予定していた。森山氏はオンラインの初級講座を受けてみた。
「基本的なベースは自分の考え方と重なるところが多かった」
8月に広島市で2泊3日の養成講座を受けて合格し、全国で12人のエキスパートコーチの1人となった。今後は理論をさらに学んで、自分の中で昇華し、実践や後援などの活動をしていく予定だ。
“モヤモヤ”からボトムアップ理論に至る過程で、森山氏には思い浮かべる指導者がいる。名古屋グランパスのアーセン・ベンゲル元監督だ。ベンゲル監督が就任して途中出場が増えていた森山氏は、類稀なる得点感覚を生かした「スーパーサブ」という、勝負どころでピッチに入って点を取る仕事の快感を教えてもらった。S級ライセンス取得時の海外研修でベンゲル監督のいた英プレミアリーグのアーセナルを訪れた時に、「監督ってどんな仕事だと思っていますか?」と聞いたことがある。
「監督は良いガイドでなくてはいけない、という答えでした。ベンゲルさんはカリスマ性で引っ張るというより、教育者というタイプで、自分が主ではなくて道案内するような指導者ですよね。選手時代にはベンゲルさんとやり合ったこともあったけど、振り返ってみるとやっぱり選手と向き合っていた。選手を守り、100%の安心を与えること、とも話していた。高圧的な指導やハラスメントのあるスポーツの環境なんてもってのほか。考え方のスタンスは、ボトムアップ理論と似ている感じがあります」