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スポーツ特待生に「競技だけ」の甘え許さず 「条件は?」という保護者の声も…勉強を疎かにさせない箱根常連校の規律

普段は法学部教授として教鞭を執る川崎監督、部員の保護者には教育者としても向き合っている【写真:中戸川知世】
普段は法学部教授として教鞭を執る川崎監督、部員の保護者には教育者としても向き合っている【写真:中戸川知世】

最近は意識が欠けている学生に文武両道を求めるワケ

 川崎監督が指導する上で、重視しているのが学業との両立だ。本来、部活動は課外授業の一環であり、教育的な側面を有する。文武両立を目指すのは、極めて当たり前のことだが、最近の学生は、その意識がやや欠けているようにも見えるという。

――陸上と学業を両立させるのは学生の本分だと思いますが、最近の学生は学業よりも競技優先の思考が強いのでしょうか。

「今の子は陸上だけやっていればいいという感じを受けますし、特に強豪校はそういう考えの選手が多いのではないでしょうか。それに困惑している指導者も多いと思います。今の子は箱根駅伝への思い入れが強くて、世間も箱根、箱根と言いますから学生も勘違いしてしまうんです。うちは、競技者である前に学生である。だから、学業を疎かにしてはいけないとはっきり言います。私は、指導者ですが、教育者でもあります。授業をさぼる学生は、練習には出しません。いろんな大学がありますが、そこは1、2を争うぐらい厳しいと思います」

――成績表や、学年ごとの取得単位も厳しく見る感じですか。

「もちろんです。スポーツ特待生でも陸上だけという甘えは学生である以上は許されないと思います。例えば1年から2年に上がる際、40単位以下の場合は警告になり、そうなると退寮になります。それは陸上がいくら強くても例外はありません。強い選手でも単位不足の学生は退寮させました。厳しいと思われますが、入学する前に親御さんには、いくら陸上が強くても学業を疎かにすると、大学としても困りますし、我々がやっていることが崩れてしまうので、そこはしっかり両立してもらいますという話をしています」

――スカウトの段階で陸上だけに集中したいという子も多いのではないでしょうか。

「なかには勘違いされているケースも。タイムや方針ではなく、学費免除とか、どういう免除があるんですかということだけをストレートに聞いてきます。高校時代にそういう免除があり、当たり前になっているのです。大学には陸上で行くのに、なぜ授業に出て、単位を取らないといけないのかって思う子が多いのですが、そういう子は大学でも社会に出てからも通用しません。うちは陸上の前に社会に貢献できる人材を育成するのを重視しています。陸上だけやっていればいいという考えの子は、社会に出ても何もわからない。すべて周囲のみんながやってくれるものだと思ってしまうので、人間的にバランスが欠けてしまうんです」

 大学の練習のスタイルはそれぞれ異なるが、通常はA、B、Cといくつかのチームに分かれて練習している。中央学院大では練習はふたつのパターンに分かれ、タイム設定が2通りあり、選手が自分で選んで進めていく。現状の自分の調子やレベルに合わせて、しっかりやり切ることを重視している。

――監督が選手にこのパターンでやりなさいと指示することはないのですか。

「基本的に選手が下から上のレベルに上げてトライする時は、何も言いません。下から上に行って練習するのは、やろうという気持ちがないとキツイのでできなくなるからです。ただ、上のレベルで練習をしていて、怪我のリスクがある子や今日はやめた方がいいと思う子には下のレベルでやるように指示します」

――中央学院大は育成に強いと言われていますが、実際、学生が入って来て、どのくらいのスパンで競技力をつけ、箱根を走れればと考えていますか。

「理想は、3年目で芽が出ればいいなと思っています。そのために1、2年生の時にすべきことは昔から変わっていません。ジョグの質と量を高めること。徹底して補強トレーニングをすることです。それは故障予防もありますが、今の子たちはスピードばかり求めて基礎体力作りをしないので、壊れない体を作るためでもあります。私は体育学部だったので、実技が多くて自然と体作りができていたのですが、うちは体育学部がなく、学生は1日の半分を椅子に座っているので何も上乗せがないんです。そのためにやるんだよって言うんですけど、今の子は本当にジョグとかが嫌いで。嫌いなことを1年目に必要だということを徹底して覚えさせてやらせています」

――競技の基本となるジョグが嫌いなのですか。

「嫌いなのがジョグで、好きなのがスピード練習です。短くてハイになるので気分がいいんですよ。でも、それが好きな子に限って、腕立てや腹筋がろくにできないんです。そういう子は、すぐにあちこち壊れて、ちょっと良くなって、また壊れての繰り返しでぜんぜん強くならないですね」

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佐藤 俊

1963年生まれ。青山学院大学経営学部を卒業後、出版社勤務を経て1993年にフリーランスとして独立。W杯や五輪を現地取材するなどサッカーを中心に追いながら、大学駅伝などの陸上競技や卓球、伝統芸能まで幅広く執筆する。『箱根0区を駆ける者たち』(幻冬舎)、『学ぶ人 宮本恒靖』(文藝春秋)、『越境フットボーラー』(角川書店)、『箱根奪取』(集英社)など著書多数。2019年からは自ら本格的にマラソンを始め、記録更新を追い求めている。

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