陸上を数年間離れ「自分探し」のバイト生活 製紙工場、引っ越し屋…世界一に必要だった“空白期間”「休んでなかったら…」【東京世界陸上】
陸上の世界選手権東京大会は13日から国立競技場で熱戦が繰り広げられた。2007年の大阪大会以来18年ぶり3回目の日本開催。現地で取材した「THE ANSWER」では、選手や競技の魅力を伝えるほか、新たな価値観を探る連載「東京に集いし超人たち」を展開。第9回は「競技から離れる選択肢」。村竹ラシッド(JAL)が5位入賞した男子110メートル障害を制したのは25歳のコーデル・ティンチ(米国)。実は数年間スポーツから離れ、アルバイトをしながら自分探しをしていた過去が。異例の空白期間は、初の世界王者に欠かせないものだった。(取材・文=THE ANSWER編集部・鉾久 真大)

東京世界陸上連載「東京に集いし超人たち」第13回
陸上の世界選手権東京大会は13日から国立競技場で熱戦が繰り広げられた。2007年の大阪大会以来18年ぶり3回目の日本開催。現地で取材した「THE ANSWER」では、選手や競技の魅力を伝えるほか、新たな価値観を探る連載「東京に集いし超人たち」を展開。第13回は「競技から離れる選択肢」。村竹ラシッド(JAL)が5位入賞した男子110メートル障害を制したのは25歳のコーデル・ティンチ(米国)。実は数年間スポーツから離れ、アルバイトをしながら自分探しをしていた過去が。異例の空白期間は、初の世界王者に欠かせないものだった。(取材・文=THE ANSWER編集部・鉾久 真大)
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直線110メートルの間に10台のハードルが並ぶ。「1レースの中に10個のレースがあるんだ。いや、スタートとフィニッシュがあるから12個か」。一台一台が一つの勝負。隣を気にする余裕はない。求められるのは、自分のレーンだけに集中すること。様々なスポーツを経験してきたティンチにとって、それがこの競技最大の魅力だ。だが、12秒99で世界を制する5年前、彼は自分のことさえ見失っていた。
「自分はとても幸せな人間というわけではなかったと思う。数多くのことを経験した。周りからは『この仕事をやっているべきじゃない』とか、『これをやっているべき、あれをやっているべき』とか言われた。自分のことを信じられなきゃ、他人の言葉を信じるのもとても難しい」
高校時代は三段跳びと走り幅跳びで州大会を制覇。走り高跳びと110メートル障害でも2位につけた。陸上以外にもアメフトやバスケにも熱中。特にアメフトでは最高峰のNFL入りを目指し、奨学金を得てミネソタ大に進学した。しかし、いざ入ってみると陸上により可能性を感じ始め、2019年にピッツバーグ州立大に転校。だが、手続きの不備でその年は大会に出場できなかった。
不運は続く。翌2020年は新型コロナ禍に巻き込まれ、試合ができない日々が続いた。精神的にも苦しんだティンチはスポーツの一線から一度距離を置くことを決意。週に1回YMCAでバスケをするのが唯一の運動となった。製紙工場や携帯電話の販売店、引っ越し業者で日銭を稼ぎながらの「自分探し」。自分は何をしていれば、誰と一緒にいれば幸せになれるのか。自問自答を繰り返した。
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