弁護士に聞くスポーツのハラスメント問題 パワハラが起きる理由とセクハラへの対処法
狭い人間関係・近い距離感がセクハラの土壌になりやすい、勝つことへのプレッシャーが判断を鈍らせる
では次に、セクシャルハラスメント(セクハラ)について具体例を交えながら紹介する。堀口氏によると「同じスポーツのハラスメントでも、パワハラとセクハラには大きな違いがあります。パワハラには技術の向上につながるという指導者の誤解、『選手のためを思って』という意識が行き過ぎたケースも少なくない。ところがセクハラには『選手のため』という意図はなく、プライバシーの侵害や接触が選手の技術の向上に役に立つことは一切ありません」
セクハラは選手の年齢層によってその性質が大きく異なるという。
1.年少者を対象としたもの
まだ判断能力が低い小中学生の無知につけこんだセクハラ。思春期あたりの子どもは、自分の気持ちを誤解し、指導者に特別な感情を抱くことがあるが、それを利用し特別な関係に至るケース。
2.年長者を対象としたもの
本人に判断能力があっても、狭い世界の中で絶対的な権力を持つ指導者に逆らえない関係性につけこんだセクハラ。「チームをまとめるためには、心を通わせる必要がある」などと言って、指導者が男女の関係を強要するようなケース。中でも大学生に対するセクハラは多い。
「ある競技を小学生から高校生まで長い期間極め、勝つことのプレッシャーにさらされ続け狭い人間関係に慣れ切ってしまうと、指導者の言うことは絶対なのだと思い込んでしまいます。セクハラの被害者は大半が女性ですが、男性も被害者になりえます。男児への性的な興味を動機として、部活の指導者になりセクハラにおよんだケースもありました」
被害者が年少者の場合、本人が声をあげるのは難しい。堀口氏によれば、「加害者は子どもの無知につけこんでいるため、子どもはセクハラをおかしいと思わず、そういうものだと誤解していることもある」という。その場合、ふとしたきっかけで子どもが保護者に話したことから、セクハラが発覚する。
「お子さんがセクハラを受けていることを知った保護者は、まず学校に相談することが多いです。流れとしては、例えば、校長や教頭に相談し、加害者から聞き取りがなされた上で、厳正な処分がなされます。被害者が女児なら女性の教師や養護教員をつけ、被害児童から話を聞きます。もし本人がうまく話せない場合は、母親に聞き取りをします。事実が確定するまでは、問題の指導者を指導から外す処置をとります」
多くの保護者が求めるのは、慰謝料よりも問題の指導者に指導から離れてもらうことだと堀口氏は付け加える。加害者が教師の場合、処分は部活の指導から外す、担任から外す、別の学校に転勤させる、教育委員会付きにして教鞭をとらせないなど、事件の重さによってさまざまだ。学校内でうまく解決されない場合に、保護者は弁護士に相談することが多いという。
大切な子どもがセクハラの被害に遭わないためにはどうしたらよいのか。それには日頃のコミュニケーションが重要となる。
「性教育と関係しますが、お子さんには普段から意思に反して身体を触られることはよくないことだと伝えておくことが大切です。セクハラの事件では、後になって『そういえばある時から子どもの様子がおかしくなった』と語る保護者の方が多いんです。口数が少ない、食欲がない、自室にこもりがちになったなど、普段からお子さんの変化に敏感になっておくといいと思います」