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侮ってはいけない脳震盪「脳細胞には痛覚がない」 選手生命を奪う頭部外傷の恐ろしさ

頭部外傷が起きたとき、選手を守る対応とは

 では選手が頭を打って一瞬でも意識を失ったら、その場にいる指導者は何をするべきでしょうか。その場合、まず指導者は試合や練習をストップさせ、救助に全力を傾けるべきでしょう。もし選手がすぐに立ち上がったとしても、安静を指示し、すぐに医療機関を受診させるというのが大原則になります。

「病院は明日でいいよね」と軽く考えるのは問題です。頭蓋内で出血が起きていたら、夜中に急変することも十分に考えられます。また指導者が病院に行くように促しても、選手の自己判断で行かないこともあります。指導者が付き添う、あるいは保護者や家族が付き添って、確実に受診するようにしてください。最近は、ニュースなどで脳震盪をはじめとする頭部外傷の危険性の認知が広まってきており、病院に付き添って選手を受診に連れてくる指導者が増えているのは良い流れだと思います。

 保護者の皆さんにも、ジュニア選手であるお子さんの健康状態を最優先で考えてほしいと思います。これは本当に大切なことなので何度でも繰り返しますが、脳で起きていることは外からは分かりません。頭蓋内の出血は外からは見えませんし、こんな症状があれば出血している、という判断は不可能だからです。

 競技中にもしお子さんが頭部を強打したら、保護者は「お子さんが交通事故に遭ったのと同じくらいのダメージ」と考えてよいでしょう。家族が歩行中に自動車にはねられて頭を打ったら、救急車を呼びますよね。頭を直接打っていなくても、また怪我が大したことなくても、安静を保ちながら念のため病院を受診させるのではないでしょうか。

 スポーツの現場ではどうしても、スポーツの力学とでもいいましょうか、勝つ、我慢、忍耐、挑戦、復活、あきらめない、といった空気に個人も、全体も染まりがちです。ですが、そんな空気に保護者は熱狂しすぎることなく、「冷静な」目でお子さんを保護する義務があるのです。危険な状況になった瞬間、すぐに動けるように心づもりをしておいていただきたいと思います。根拠のない「大丈夫」が、大切なお子さんに深刻な結果を引き起こすことになったら悔やんでも悔やみきれません。頭を打った後は必ず専門の医療機関を受診し、CTやMRIなどの客観的画像検査をもとに、専門家の診断を受けるようにしましょう。

 さらに頭を打った日の夜は、夜中に急変することがあるため、一人にせず家族の目が届く場所で就寝させて様子をみましょう。脳の異常が「いつもよりよくしゃべる」逆に「黙り込む」「感情的になる」など、いつもとは少し違う言動となって表れることもあります。これらを意識の変容(へんよう)と言いますが、いつもと違う、を察することができるのは、いつもを知っているご家族だけです。お子さんの言動にも注意し、何かおかしいと思ったら躊躇なく病院を受診するようにしてください。

 頭部外傷の後、選手をいつ復帰させるかは、指導者として悩むところでしょう。前述のように各競技団体が復帰へのガイドラインを整備していますが、スポーツドクターとして強調したいのは、「復帰ありき」ではなく「脳の状態ありき」で冷静に判断する姿勢が大切だということです。

 多くの選手は早く練習に復帰したいと願い、指導者もそれを叶えてあげたいと思うでしょう。競技で結果を残したいという熱意、選手として活躍できる期間が有限であるという現実の前に、「とにかく少しでも早い復帰」が優先されがちです。しかしその焦りが、選手生命を奪い、選手の引退後の人生まで暗くするようなリスクを抱えた不適切な復帰であってはいけません。

 何か再び事故が起きれば、誰が復帰を許可したのか? 誰が大会出場を許可したのか? それは正当な段階を踏んだものだったのか?と、問われることになるでしょう。選手が安全に復帰し、選手生命を輝かせることができるのは、専門家による客観的な判断の裏付けがあってこそ。この部分を関わる全ての方々の共通認識としてほしいと思います。

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