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侮ってはいけない脳震盪「脳細胞には痛覚がない」 選手生命を奪う頭部外傷の恐ろしさ

脳の特性を知ると、頭部外傷の恐ろしさが分かる

 頭部外傷における注意点としてぜひとも知っておいてほしいことがいくつかあります。一つめは「脳細胞には痛覚がない」という事実です。これが膝や足首の靭帯を損傷したのでしたら、あるいは骨折して骨膜が破壊されたのでしたら、「めちゃくちゃ痛い」はずです。ところが脳細胞自体には痛覚がないので、痛みの大きさと脳のダメージの重症度に比例関係はまったく無く、重症であっても頭痛がほとんどないケースも少なくないのです。つまり、本人に自覚症状が無く、いたって平気でも、脳の中は深刻な状態が起きている、あるいは起きつつある可能性があるというわけです。

 二つめに知っておいていただきたいのは、頭蓋内で出血があった場合、「症状の出現までにタイムラグがある」ことです。例えば硬膜外出血と呼ばれる病態では、脳の外側を覆う硬い膜である「硬膜の外」に出血源がありますので、出血した直後は無症状のことが多いのです。ですから受傷者本人も元気ですし、症状もほとんどありません。

 ですが、時間の経過とともに出血量が増え、硬膜がベリベリ、ベリベリと剥がされながら血腫が増大していきます。その結果、脳の実質が圧迫されて症状が出現する、ということがあるのです。これを専門的には「ルシッド・インターバル」と呼ぶのですが、「頭を打ったら少なくとも24時間から48時間は一人にしてはいけない」と言われるのは、このインターバルがあるからです。臨床の現場では、頭を打ってから意識消失まで2週間、という症例もあり、「頭を打って、一瞬意識を失ったけど、すぐに意識が戻った」という状態であっても、しばらく経ってから容体が悪化するケースがある。このタイムラグの存在を指導者・保護者・実践者は知っておいてほしいのです。

 三つめは、衝撃による脳機能低下の問題です。衝撃は脳機能に異常を引き起こし、正しい判断を阻害します。本人が「自分は問題ない」と認識していても、その判断が間違っていることがあるのです。脳をコンピューターにたとえるならば、1+1=2のところを1+1=3と計算してしまうような状態ですから、「ダメージを受けた脳の出す正解は正解ではない」のです。現場に居合わせた指導者は、「脳に衝撃を受けた後の言葉は疑わしい」「『大丈夫』は、大丈夫ではない」と肝に銘じることが、選手を救います。

 頭蓋内出血、脳ヘルニアなどの緊急手術の適応がある病態に比べると、脳震盪の方が重症度が低いようなイメージを持たれることがありますが、脳震盪に付随する「セカンドインパクトシンドローム(※2)」は非常に危険な病態です。

 セカンドインパクトシンドロームは、科学的解明の点においてまだ議論があるところですが、「脳震盪を起こして短期間のうちに2度目の衝撃を受けると、取り返しのつかないダメージを引き起こす」というものです。

 セカンドインパクトシンドロームは重症化しやすく致死率は50%以上、助かったとしても後遺症が残りやすいと言われています。ある武道競技で頭部への打撃でダウンした選手が意識を回復して立ち上がり、セコンドの「行けー!」の声に押されて選手は再び戦いに向かいました。その結果……、頭部に再度打撃を食らい、そのまま帰らぬ人となったという悲惨なケースが報告されています。

 セカンドインパクトシンドロームの詳しい機序は未解明な部分が多いのですが、一説によれば1度目の衝撃で脳内の電解質に狂いが生じ、2度目の衝撃で腫脹(しゅちょう)した脳細胞が破裂する、という報告もあります。脳震盪が起きたら、セカンドインパクトシンドロームに陥らないように、運動を完全に中止する。これを基本としてまいりましょう。

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