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「箱根がすべてではない」 城西大・櫛部静二監督、駅伝指導の根底にあるトップ選手育成の夢

個を強くするトレーニング理論は「完成しつつある」

――陸上以外の指導者や、書物などから影響を受けたことはありますか。

「僕は、陸上以外の指導者の方から学んだことはないです。陸上関係の論文や学術書をよく読んでいました。読み込むことでトレーニングの意味や重要性を理解できるので、他者に惑わされずに指導できるようになりました」

――学生の頃からトレーニング理論を学ぶ機会が多かったのですか。

「いや、学生時代は感覚派でしたね(笑)。学び始めたのは、29歳の時です。指導者を目指し始めた頃ですが、やっぱりそれまで経験則で作られた練習をしてきたのですが、それでは本当にそれが良いのか悪いのか、説明がつかないんです。自分がやっていることの意味を理解し、伝えられることが大事かなと思ったんです。僕は早大の人間科学部を卒業してスポーツに関することを学んではいたので、自分の経験と理論をミックスして現場で教えられるようにと思っていました」

――監督は、選手を勝たせたいと思いますか。それとも自分が勝ちたいと思うタイプですか。

「僕にとって駅伝に勝つというのは、自分が進めてきたトレーニングの理論や効果を、結果を出すことで証明するということです。駅伝は団体競技ですけど、個人がベースになっています。自分が考えたトレーニングで選手1人ひとりを勝たせたいですし、強くしたい。個人が成長できれば駅伝で勝てると思っています」

――駅伝で勝つことも大事ですが、個の成長や個の活躍に期待しているのですね。

「駅伝には駅伝の面白さがありますが、個人的にはオリンピアンだったり、プロ選手を指導したいという気持ちがあります。まだ、教員でもありますし、生活もあるので、それはなかなか難しいのですが……今は自分の中で個を強くするトレーニング理論は完成しつつあります。日本の陸上界が世界に置いていかれたのは、昔のトレーニングの受け売りが多いんですよ。アップデートせずにやってきているので、そういう考えでは世界では戦えない。僕は以前からはびこっている旧態依然とした考えをぶち壊したいんです」

――大学の指導の面白さは、どういうところに感じていますか。

「大学生は対話や練習を重ねていくと、自己ベストを更新するなど結果がどんどん出て、成長が本当に著しい。選手が成長し、揃っていく中で箱根駅伝に出場できるようになり、結果も出てきます。そういう教えの喜びというのは、大学で指導をして初めて気づいたものです」

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櫛部 静二

城西大 男子駅伝部監督 
1971年11月11日生まれ、山口県出身。城西大経営学部マネジメント総合学科教授。早稲田大1年時から主力として活躍し、箱根駅伝では2区に抜擢されるが、体調不良により後半失速するアクシデントに見舞われる。3年時には1区区間賞の快走で総合優勝に貢献するなど、箱根駅伝を4度走った。卒業後はエスビー食品に入社。実業団選手として活躍したが、2001年に競技を続けながら創部したばかりの城西大駅伝部のコーチに就任、09年から監督となった。10年と12年の箱根駅伝では過去最高の総合6位に導いた一方、個を伸ばす指導を心がけており、16年リオデジャネイロ五輪で5000メートルと1万メートルに出場した村山紘太、21年東京五輪3000メートル障害の山口浩勢らを育てた。

佐藤 俊

1963年生まれ。青山学院大学経営学部を卒業後、出版社勤務を経て1993年にフリーランスとして独立。W杯や五輪を現地取材するなどサッカーを中心に追いながら、大学駅伝などの陸上競技や卓球、伝統芸能まで幅広く執筆する。『箱根0区を駆ける者たち』(幻冬舎)、『学ぶ人 宮本恒靖』(文藝春秋)、『越境フットボーラー』(角川書店)、『箱根奪取』(集英社)など著書多数。2019年からは自ら本格的にマラソンを始め、記録更新を追い求めている。

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