巨人で選手&裏方20年 東北工業大・荻原満HC、最下位チームを変えた「一方通行ではない」指導
認めた選手の良さは全員で共有
選手に希望を与えることも忘れない。今春のリーグ戦期間中、実績のほとんどない投手をベンチ入りメンバーに入れると発表すると、一部から驚きの声が上がった。「紅白戦で結果を残したから」と抜擢の理由を話すと、アピールに成功すればチャンスを得られると知った他のメンバーはより士気を高めて練習に励むようになった。
エース左腕・後藤佑輔投手(3年/仙台育英高)の名前を出し、投手陣の前で「後藤だけはVIPだ」と宣言することも。後藤は今春、3完投2完封で3勝をマークし、リーグトップの45奪三振を記録した。「後藤は1人で黙々と練習していて、公式戦で結果を出している。ピッチャーはこうならないとダメだ」。認めた選手の良さは全員で共有する。
球速ばかりにこだわり、試合ではストライクが入らなかった後藤に、荻原は「スピードはトレーニングすれば速くなる。コントロールは意識を変えないと良くならない」と助言。フォームを修正したほか、打撃投手をさせてストライクゾーンに投げる感覚を覚えさせた。結果を出してからも慢心することなく努力を重ね、打撃投手を買って出る後藤の姿を見て奮起する選手が増えることを期待している。
実際、先輩の背中を追う下級生は次々と台頭してきている。左腕の熊谷蓮投手(2年/東陵高)は荻原の指導を受けたことで球速が大幅にアップし、140キロの直球を投げられるようになった。速球が武器だった伊藤理壱投手(2年/仙台城南高)はフォームが固まったことで制球力も増し、新人戦の仙台大戦では9回10奪三振無失点と快投を披露した。成長する選手は総じて、野球と向き合う姿勢に大きな変化が見られた選手だ。
荻原が指導者として最も大切にしているのは、選手との信頼関係。「信頼関係があれば、少々きついことを言ってもついてきてくれる。一方通行で威圧的なことを言ってもダメ」との気づきを胸に、1人ひとりと深いコミュニケーションを図っている。
「今のチームはすごく雰囲気が良いし、横道に逸れているやつは1人もいない。『なんとか勝たせてやりたい』と思えるチームになってきている。勝ちたいんだよ、本当に」
荻原には、「この大学からプロ野球選手を出したい」という夢がある。ただ、今は勝たせること、優勝させることを最優先事項としている。選手たちが本気でそれを求めているからだ。東北工業大が、仙台大、東北福祉大の「2強」時代に風穴を開けるか。その未来は、少しずつだが着実に、現実味を帯びてきている。(文中敬称略)
(川浪 康太郎 / Kotaro Kawanami)