「理不尽に耐える」だけでは社会で通用しない 早稲田前監督が見た大学部活生の変化
近年の日本サッカー界では、筑波大出身の三笘薫(ブライトン)をはじめ大学経由でプロ入りする選手の活躍が目立っている。様々な指導者が独自の哲学によってチームを指揮するなか、昨年11月に退任するまで大学サッカーの名門・早稲田大を5年間指揮してきたのが、現役時代に湘南ベルマーレや横浜F・マリノスなどでプレーした外池大亮氏だ。就任以来、伝統のスタイルに囚われず、柔軟な発想によるチーム運営を続け、何人ものJリーガーを育ててきた。異色のキャリアを歩む外池氏の指導論に迫るインタビュー連載。最終回では母校の監督を務めたことで感じた時代の変化と、これからのビジョンを語った。(取材・文=加部 究)
外池大亮「早稲田の伝統に挑んだ5年間」第4回、変わりつつある大学サッカーの現場
近年の日本サッカー界では、筑波大出身の三笘薫(ブライトン)をはじめ大学経由でプロ入りする選手の活躍が目立っている。様々な指導者が独自の哲学によってチームを指揮するなか、昨年11月に退任するまで大学サッカーの名門・早稲田大を5年間指揮してきたのが、現役時代に湘南ベルマーレや横浜F・マリノスなどでプレーした外池大亮氏だ。就任以来、伝統のスタイルに囚われず、柔軟な発想によるチーム運営を続け、何人ものJリーガーを育ててきた。異色のキャリアを歩む外池氏の指導論に迫るインタビュー連載。最終回では母校の監督を務めたことで感じた時代の変化と、これからのビジョンを語った。(取材・文=加部 究)
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外池大亮は、早稲田大学ア式蹴球部で5年間監督を務め、改めて大学サッカーの現場が変わりつつあることを実感した。
「今の大学生たちは、間違いなく僕らでは絶対に気づけない声を持っていて、SNS等を通じて問題提起もしています。僕らの学生時代も内心では疑問を覚え、陰では文句も言っていたけれど声にすることはできなかった。社会はそういうものだから、みたいなことを言われると『そうなのかな』と。でも学生たちが主体的に思考、活動をするようになり、それが連鎖してくると大人も変わらざるをえない。監督会議等でも、かつては誰かが発言すると他はもう口を開かないような空気だったんですが、最近はあちこちから闊達な意見が出てくるようになりました」
学生たちも社会も変わりつつある。当然監督たちも「もっと広い視座で選手たちに向き合わないと、自分のポジションが危うくなる」というムードが醸成されつつある。外池は、そう見ている。
「昔は理不尽に耐えて、言われることだけをやって、たくさん酒を呑めて……みたいな体育会出身の大学生が人気を集めました。実際、理不尽への耐性はすべて否定されるものではなく、プロの世界でもあるし、電通時代は大いに役立ったと思います。でもそれだけでは、もう今の社会では通用しません。少なくとも『こうだ』と言われても、それを鵜呑みにするのではなく、しっかりと状況を見極めていくバランス力は間違いなく求められます」
大学がプロの供給源になっているのは、欧州や南米にはない日本独特の文化だ。それは強みにしていかなければいけない資産だと、外池は考えている。
「何より僕自身が全国大会に一度も出ていない早稲田実業の出身で、大学へ来て見る景色が変わりました。大学選手権を経験し、大学選抜でプレーし、プロになれた。こんなこともあるんだな、と自分でも驚きました。4年間をどう使うかで、上がる人もいれば落ちる人もいる。一度それまでの自分を脱ぎ捨てて、課題抽出と解決のサイクルを繰り返していける選手は伸びる。また脱ぎ捨てても受け止めてくれるのが大学だと思うんです」