パラスポーツ指導者が重視する「できない」と「できる」の間にある「分かる」
障害者一人ひとりの特性や違いの理解に努め、それぞれの強みやこだわりを生かしながら指導をする、下稲葉耕己氏。これまで彼が指導した陸上選手は、世界の第一線で活躍している。健常者、障害者に限らず、スポーツ指導で選手を伸ばすためには、「できる」ようになる前に「分かる」というプロセスが大事だという。そこで選手が「分かる」ためにどんな練習を行っているのか、聞いた。(取材・文=スパイラルワークス・松葉 紀子)
健常者、障害者に関係なく、伸ばすには「分かる」プロセスが欠かせない
障害者一人ひとりの特性や違いの理解に努め、それぞれの強みやこだわりを生かしながら指導をする、下稲葉耕己氏。これまで彼が指導した陸上選手は、世界の第一線で活躍している。健常者、障害者に限らず、スポーツ指導で選手を伸ばすためには、「できる」ようになる前に「分かる」というプロセスが大事だという。そこで選手が「分かる」ためにどんな練習を行っているのか、聞いた。(取材・文=スパイラルワークス・松葉 紀子)
――そもそも障害のある選手を指導するきっかけは何だったのでしょうか。
「私自身、元高校球児で、いつかは監督として甲子園に出たいという夢があり、教員免許を取りました。教員となって体育教員として着任したばかりの学校で、私のついた指導教官が視覚障害のある方だったこと、この偶然の出会いが私の人生を変えることになりました。
2018年から日本代表の専任コーチングディレクターとなり、これまでに多くの代表選手を育成してきました。その経験から、障害者、健常者に関わらず、競技で選手が伸びるかどうかには、選手が理解すること、『分かる』ことが欠かせないと考えています」
――「分かる」というのは、運動をする時の動作を理解するということでしょうか。
「私は体操や器械運動、マット運動などの指導をしたことがあるのですが、例えば、生徒の中に『前転ができない』子がいるとします。前転という動きひとつも技術なのですが、その技術が『できない』から『できる』になると、競技レベルが上がります。その『できない』と『できる』という間に、実は『分かる』というプロセスが存在すると思っていて。私はそれが選手の能力を伸ばすために必要不可欠だと考えています。
私は選手が『分かる』ために、それを阻害しているものは何か? をまず考え、どうすれば分かるかということに注力し、指導しています。
ちなみに分かるための練習と、できるようになるための練習は違います。障害者の場合は、障害自体が理解を妨げる要因になっていることが多いのですが、障害なので取り除くことができません。ですから、どうすれば選手が『分かる』ことができるかを考えながら、あらゆる手段を試します」